暁 〜小説投稿サイト〜
或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
幕間 とある勅任特務魔導官の一日
[5/5]

[8]前話 [9] 最初 [2]次話

 新城は呆れた様な声を出す。
「その程度の話でなければ貴様に話せん。貴様の為に職を捨てる程の馬鹿では無いからな」
 羽鳥は当たり前だと言い返す。
 そうして漸く運ばれてきた料理を二人は無言で食べた。

「さて、近衛、か。どうしたものか」
新城は食事が終わると思い出した様に憂鬱な溜息をついた。
「近衛衆兵か。貴様も苦労するな」
 羽鳥は面白そうにその様子を見る。
「俺はもう意見を言った。後は貴様次第だな。」
己に出来るのは此処までだ、と線を引いた。そうした線を引く事は新城の価値観にも適っていることを羽鳥は知っている。
「いじめられるのは趣味じゃない。何も知らずに駒にされるのも嫌いだ」
 少し考えながら新城は口にした。
「そうだろうな。ならば逆の立場を取るか?」
 答えを分かりきっているのか気の抜けた口調で尋ねる。
「それは俺の趣味には合わないし得手でもない。」
 新城はそう言って茶碗の底に目を落とす。
「それにな、俺は邪魔な相手は完膚無きまでに叩き潰す。
俺はそうしてきたしそれが俺の好みだ。」
 それを聞いた羽鳥は呵呵と笑いながら言った。
「あぁそうだろうな。貴様は何時もそうだ。
だからこそお前は何もかもに決定的な何かを持ち込む。
だから貴様ははた迷惑な輩なのだ」
 ――世間が物騒になればこうして英雄になるのだろうが。
 喉元でその言葉を押しとどめた。
 ――自分までこの男を英雄扱いする必要はあるまい、今は友人として会っているのだから。


午後第八刻 宮野木家上屋敷周辺
勅任二等特務魔導官 羽鳥守人


 二等特務魔導官は現場の指揮を任される事が多い。羽鳥も不自然にならない様に部下を配置し、自身も目立たぬ様に定期的に動きながら指示を出す。
「……宮野木、か」
 謀略を得意とし、駒城篤胤と渡り合い続けた老人を脳裏に浮かべ、溜息をつく。
 ――厄介な二人の老人は、表舞台へと謀略の網を伸ばすのだろう、厄介極まりないことになるのは間違いない。
「アスローン・モルト、楽しみにしていたのだがな」
――勅任特務魔導官の夜は長く、それに比して通人を気取る夜は短い、酒を嗜める夜は暫く無いだろう。
 悲しそうに頭を振ると羽鳥は光帯の光を咀嚼している薄闇へと歩みを進めた。

[8]前話 [9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ