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戦国異伝供書
第五十八話 出家その十

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「果たさせて頂きます」
「頼むぞ、皆命を捨てると思うでない」
 この度の戦ではというのだ。
「勝って甲斐に帰るぞ」
「ではそれがしも」
 原がここで応えた。
「手柄を立て」
「その手柄をじゃな」
「甲斐で自慢して宜しいでしょうか」
「その意気じゃ、ではな」
「はい、我等は」
「勝って甲斐に戻るぞ」
 信玄はここでは笑って言った、そうしてだった。
 軍を甲斐から信濃に入れて信濃を北上していった、義元はその話を聞いてその顔を微笑まさせて雪斎に言った。
「では麿達はでおじゃる」
「まずはですな」
「尾張を攻めてでおじゃる」
 その様にしてというのだ。
「あの国を手に入れてからでおじゃる」
「美濃もですな」
「手に入れそして」
 そのうえでというのだ。
「近江から都でおじゃる」
「ではその進路で」
「そして和上は」
 雪斎自身にも言うのだった。
「都に戻られて」
「はい、そしてその都で」
「過ごしたいでおじゃるな」
「今都は荒れておりますが」
 戦乱の為だ、平安の賑わいはもう消え果ててしまっている。
「それでもであります」
「和上の馴染みの場でおじゃるな」
「そうでありますから」
 だからだというのだ。
「やはりです」
「戻られたいでおじゃるな」
「殿も都におられるでおじゃるな」
「上洛すればでおじゃる」
 義元はこの時のことも話した。
「麿は将軍になるでおじゃるからな」
「禅譲を受けて」
「そうしてでおじゃる」
 そのうえでというのだ。
「幕府の将軍になるでおじゃる」
「左様ですな、では」
「以後は都においてでおじゃる」
「天下の政をですな」
「執るでおじゃるからな」
「左様ですな、では拙僧は」
「都に戻られ」
 義元にあらためて話した。
「そのうえで」
「麿を助けてくれるでおじゃるな」
「そうさせて頂きます」
 こう義元に答えた。
「是非」
「さすればでおじゃる」
「はい、さすれば」
「また和上が先陣でおじゃるが」
「この度は竹千代もいるので」
「あの者も頼りになるでおじゃるな」
「当家は麒麟を得ました」
 元康のことをこう言うのだった。
「まさに」
「三河の麒麟でおじゃるか」
「左様です、麒麟を得たということは」
「虎や龍に匹敵するでおじゃるな」
「獅子にも、そして」
「和上はそこで蛟龍もと言うでおじゃるな」
「左様であります」
 雪斎も否定しなかった、信玄や謙信、氏康の後にやはり信長も挙げるのだった。
「やはり」
「そうでおじゃるな」
「これが安芸の毛利殿ならば違うことを言いますが」
「あの御仁の奸悪は聞いているだけで呆れるで」
 義元は元就については眉を顰めさせて述べた。
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