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呉志英雄伝
第九話〜予兆〜
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礼かもしれないが、あながち間違いでもない。否、実に的を射ている表現である。


「それは承知の上です。ただ気に留めておくだけでもお願いいたします」


それでも万事に備えるのもまた名将の条件だ。その点において、江は実に厳密だった。不安材料をとにかく減らそうと躍起になっていたのかもしれない。


「承知した」


祭の同意の言葉に深々と頭を下げると、江は船室から辞した。陽の落ち、すっかり暗くなった襄江。
その上を、松明によって照らされた船団が静かに進む。
煌々と燃える松明の火さえ呑みこんでしまうのでは、と錯覚するような暗闇を前に江はまだ不安を抱いていた。
昼間にも感じた同様の予感。それは桃蓮に対するものか、それとも孫呉に対するものか。いくら根拠を求めようと、解は一向に出ない。
この時、江はまるで考慮していなかった。







己に降りかかるかもしれぬ災厄の可能性を度外視していた。

運命の歯車は、錆びついた音を奏でながらも確実に回り始めていた。








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孫呉の軍勢は予定通り10日をかけて安昌に到着、その後は陸路を進軍し、先日、南陽・宛城付近に陣を張った。


荊州南陽
東西北を険しい山や関に囲まれたこの土地は、広大な荊州の北端に位置する。
冀州にて、張角率いる黄巾党が蜂起をしたのと時を同じくして、こちらでは張曼成が兵を興し、そして太守を殺害、南陽の宛城を占拠した。
漢都・洛陽にほど近く、また周囲を劉表、袁術ら有力な勢力に囲まれているために日々戦が絶えず、その過程で張曼成は命を落とすこととなる。
この指揮官の後継として選ばれた趙弘は徒に兵を損ずることをよしとせず、略奪以外には宛城に立て篭もることを選択した。


「まぁ今となってはその選択は愚かであったという他ないのだが」


そう漏らすのは孫呉の頭脳とも言える存在、周公瑾。
彼女ら・孫呉の軍勢は今、その宛城の南方に位置する博望に陣を構えていた。


「ええ、おかげさまでそろそろ向こうの兵糧も底を尽くようです」


そんな呟きに応えるのは、孫呉随一の智勇を併せ持つ将・朱君業。
安昌に到着したときに、江は既に配下の明命、そして思春に命じて、敵の本拠である宛城を探らせたのだ。その結果得た情報が兵糧の不足である。
当然の帰結である。何故ならば、敵軍総帥は強力な勢力との接触を避けるために略奪も近場で済ませていたのだ。
しかし一度略奪をおこなえば、その都市は当分の間廃墟のままである。つまり彼らは限りある資源を後先考えず食いつぶしていたのだ。
そしてその兵糧が尽きようとしているときに孫呉の軍勢
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