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呉志英雄伝
第八話〜胎動〜
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「察したようですね。今回の任務はとても簡単なものです」



母なる長江に巣食う下賤な者たちには、下賤な者同士で潰し合っていただきましょう。



江の眼光は明命を射抜かんばかりに鋭いものとなっていた。


江の作戦はこうだった。
最近になって互いに歩み寄る動きを見せていた二勢力の不和を生じさせ、疑心暗鬼の状態までもっていったところで、少数の兵を以て片方の勢力を砦から釣りだす。
あとはそのままもう一方の勢力の方へとおびき寄せれば、向こうから攻められたという事実が出来上がるというわけだ。


「不和を生じさせるには…ふむ、使者を使いましょうか」


まず孫呉から無条件降伏を求める使者を両勢力に出す。当然相手はそれを突っぱねるだろう。何せ自分たちは仮にも大勢力なのだから。それくらいの推測は容易いものだ。
そこで明命たち諜報部隊の出番である。
互いの勢力に『もう一方が降伏をするらしい』という噂を流させる。もしそれをまるで信じなくとも、事実確認をするために、使者くらいは立てるだろう。
あとはその使者を屍にして砦の前に晒しておけば、疑心暗鬼な状態の出来上がりだ。
とはいえ、ただ仲たがいを起こさせるだけでは周りの被害なども想定できない。だからこそ江は回りくどくとも、自分たちが戦場を制御するために、少数で砦から釣りだすという手をとることにしたのだ。そうすれば戦いの始まりから場所まで自分たちの支配下における。


「まぁ当然それだけではないんですがね」


江の浮かべる薄い笑みに明命は背筋の凍る思いをせざるを得なかった。







時は三度現在へと戻る。
今の戦場は洞庭湖に注ぐ湘江河口付近。周りには低湿地帯があり、葦などで見通しは相当悪い。そんな場所をわざわざ戦場に選んだのには理由というものがある。


「頃合いですね…」


江は呟くようにそう言うと、右手の大剣を高々と掲げた。それを合図に孫呉の兵100人はサッとその低湿地帯の外へと出る。


「今です!」


明命の張りのある声と共に、戦場に突然火が起こった。交戦中に孫呉の兵に奇襲を受けてなお自分の置かれた状況に気が付かなかった察しの悪い賊も、ここでようやく気が付いた。全ては孫呉の仕組んだことなのだと。


「し、死にたくねェよ…」


賊のうちの誰かはそう言った。言ってしまった。
心の中で呟くには大いに構わなかった。しかしそれを口に出してしまった。そして不幸なことに他の者の耳に、その言葉は届いてしまった。
言葉にされることによって、より鮮明に『死』の恐怖が襲いかかる。ただでさえ死に体の身に活路があるとすれば…


「うわああぁぁぁぁあああぁぁあああぁあ!!!!!!」


逃げることだけで
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