第八話〜胎動〜
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その冷静な江の様子に、焔の高ぶった感情は徐々に削がれる。
背もたれに乱暴に身を預け、焔は額を抑えながら江に問うた。
「江がそこまで言うということは、当然何かあるのよね?」
「ええ、もちろん。それともう一つお借りしたい者が…」
笑顔で返す我が子に、焔は嘆息を漏らすほかなかった。
そして時は再び現在へと戻る。
ゆっくりと岸に近づく船団の上で、江は明命に聞いた。
「ところで手配は済みましたか?」
「はい!」
元気な返答に江は頬を緩ませながら、視線を前へと向けた。
船団の速度は一気に上昇する。ついに岸に船を着けたとき、江は声高らかに宣言した。
「総員かかれ!一人たりとも逃すな!大地を、草木を賊共の血で朱に染めよ!」
言葉を皮切りに上陸を果たした孫呉の精兵は次々と戦場へと流れ込んだ。
敵兵の眼前へと迫り、次々に屠りながら明命は思考を巡らせていた。
現在の状況を整理しているわけではない。ましてや次の展開に備えてというわけでは断じてない。
(こうも上手くいくとは)
彼女の脳裏では、現在の指揮官である江によって伝えられた作戦の全貌がよみがえっていた。
「軍には慣れましたか?」
練兵場で汗を流していた明命は、突然声をかけて来た江にあわてた様子で礼をする。
「は、はい!おかげさまで何不自由なく!」
「そうですか」
少しずれた答えにも、江は微笑みで返す。
そんな暖かな笑みに口を半開きにしながら見とれていた明命は、我に返るとすぐさま話を転換する。
「なな何かお話があったのではないですか?」
「?…まぁ確かに話はありますが」
急な転換に合点のいかない様子だったが、気を取り直したのか表情を引き締める。
それを見て、これから話される案件が重要なものであると察した明命も呼応して、今までの笑みを消して表情を引き締める。
「以前からあなたには諜報部隊の編成を頼んでいましたね?」
「はいっ!思春殿に協力してもらったおかげで、実戦に使える段階にはなっているかと…」
最初ははきはきと言っていたが、次第に声が尻すぼみになっていく。恐らくは結果を見るまで、確信というものが持てないのだろう。
「そうですか。では今回は最終試験の場としましょう」
「最終試験、ですか?」
「ええ、今洞庭湖の畔に二つの賊の大勢力があることをご存知ですか?」
「はい、何でも最近互いに歩み寄る動きが…まさか」
自分の知っている情報を口にし、ハッと息を呑む。
その様子に江は満足げな笑顔で応える。
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