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呉志英雄伝
第七話〜蒼〜
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もう大丈夫。
もう安心していい。

言葉は交わさないのに、そう言い聞かされているような気がしてならなかった。
男は女の縄を解くと、やさしく大地に下ろし、大剣を担いで、賊のほうへと歩み寄る。
腰を抜かし、後ずさることしか出来ない賊は失禁し、ひたすら命乞いをしていた。
涙と鼻水で顔面を濡らしたその顔は醜悪そのものだった。
すると男は背を向けた。その行動に呆気に取られた。

見逃すのか。
許すのか。
両親を、友を殺した、自分を慰み者としたその賊を野に放つのか。

怒りがこみ上げる。信じた瞬間に裏切られた気がした。
賊は男の行動に歓喜した。生きながらえたと喜んだ。その顔には品性の欠片もない醜い笑みが浮かんでいた。


しかし、男の担いでいた大剣がぶれた。
次の瞬間にはその笑みの鼻から上はなくなっていた。
男の担いでいた大剣がぶれた。
その次の瞬間には首から上がなくなっていた。
主を失った賊の体は、切り口から泉のように血を飛び散らせて力なく横たわった。
女は直感した。
賊に背を向けたのは、決して許すというためではない。その醜悪な死に顔を見取ることすら拒絶したのだと。

一部始終を見届けた女の下に歩み寄ると、男は泣きそうな声で言った。ただ一言。

申し訳ございません


最初何故謝られたのか分からなかった。しばらくして、その場に彼の配下と思しき兵士たちが集まり、近くに築かれた賊の根城まで行軍した。
女は腰が抜けたようで、終始赤い髪の男に背負われていた。

賊の根城には賊や、慰み者となった女子供の惨たらしい亡骸が多数横たわっていた。
彼は配下にすべてを埋葬するように伝えると、女に向き直った。そして口を開いた。

これら全ては、自分たちが遅かったが故に引き起こされた惨劇です。どう罪滅ぼしをすることも出来ません。

ようやく謝られた理由が理解できた。
しかし得心は行かなかった。救援も何も要請していなかったのだから。
それだけ言い残すと彼は配下と共に埋葬に取り掛かった。その背中はやけに小さく見えたのは、果たして女の気のせいだろうか。

しばらくして、女の下に一人の兵士が駆け寄ってきてこう言った。

どうか彼を悪く思わないでほしい。彼の本来の任務は呉郡の掌握であり、呉にたどり着いたのは三月前のことなのだ。
そして情報収集のために各村々を回っていくうちに、この会稽付近に巣食う賊のことを聞くに至った。
彼は悔やんでいた。あと少し来るのが早ければ、と。
今ここにいることは本当は命令違反だ。それでもこうしてやってきた。知るものすべてを殺されたことを承知で言う。どうか彼を悪く思わないでほしい。


もとより女は彼らを、彼を責めるつもりなど毛頭なかった。
しかしこの話を聞いていると、女
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