第六話〜指針〜
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はその限りではないのだが…
「その件に関してはきちんと考えていますよ」
この発言により、執務室に偏在する意識は江へと集中する。
「昔から山越と仲良く、もしくは服従させるという考えが存在しました。しかしそれも全て失敗に終わりました。それぞれの集落が独立しているがゆえに」
山越は先にも記したとおり、単数民族ではなく多くの少数民族からなる総称である。故にその内情は一枚岩では断じてなく、対立することもしばしばだった。
「しかし近年山越内でもある集団が抜きんでるようになりました。越国の末裔を中心とする集団です。彼らは先祖の知識や、我々と多少なりとも言葉が通じるという利点を以てのし上がってきたのです」
「よく調べておるの」
「江様はかねてより孫呉の繁栄と山越の動向は密な関係であるとお考えでしたので〜」
「力の大きい集団には当然、周りの矮小な集団も取り入ります。そして今回はそのことを利用しましょう」
ここで江は冥琳に視線を移す。
その意図を感じ取った冥琳も口を開き、言葉を発することによってそれに応える。
「つまり山越内でも一大勢力であるその集団との『同盟』を提案しているのだな?」
「同盟!?」
「言葉も通じ、もし通じないとしても孫呉の兵の中には山越出身の者もいるので通訳に回せましょう。そして今の我々に山越と戦う余裕がないのもまた事実。更に同盟によって国力を増すこともできます」
江が山越との同盟を推す理由のもう一つが交易であった。
山越からくる象牙などの装飾品は漢国内でも非常に高値で取引される。つまり、その交易によって国外からの金の収入を増やそうというのだ。
「まだ桃蓮様の耳に入れてはおりませんが、恐らく桃蓮様も同様のことを考えているかと」
「…利点を見ると悪くはないわね。ただ信用できるの?」
「交渉次第で如何様にも」
「クッ、違いない」
この会合において、ひとまず家臣団の総意として『山越との同盟』という案が採用されたのだった。
諸将は去り、夕も処理を終えた竹簡を運びに行き、執務室には江と穏だけが残っていた。
江はさすがに疲労がどっと押し寄せたのか、机に突っ伏したままピクリとも動かない。ふと穏は笑みを湛えながら言った。
「山越との同盟にまで国力を増大させることを考えるなんて、さすがですね」
「おや、穏は考えてなかったのですか?」
穏に対し、江は首を動かし、顔だけ向けて反応する。傍から見ればえらく滑稽である。
「いえ、考えていましたよ〜。でも江様の場合、他でもやっているじゃないですか。益州相手に塩を売買したり」
「はて、何の事だか」
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