第六話〜指針〜
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は正直当てにならない。そう判断した祭はあっさりと雪蓮の言葉を流した。当然雪蓮はいじける。しかし放置する。
「強いて言えば、意外、でした」
とは冥琳の言である。
「へぇ、意外って言うのは?」
「桃蓮様は以前より、この南荊州の統治を任されたことに対して、誇りを持っているように見受けられました。それだけに今回のことは予想外だったのです」
「…まぁ…確かに、の…」
統治に誇りを持つということは、漢への忠誠を意味することと同義である。冥琳はそう解釈した。もちろん一般的な解釈としてそれは正しい。しかし何事にも例外というものがある。
「…なるほど。桃蓮様の心のうちでは『漢』より『国』のほうがおおきくなってしまったということですか」
「『国』とはまさしく『漢』ではないのか?」
「蓮華、この大陸には古来よりたくさんの国がありました。『趙』、『燕』、『斉』、『韓』など様々です。しかし大陸を統一した勢力は『殷』、『周』や『秦』、そして今の『漢』くらいのもの。そして統一した勢力によって、桃蓮様は南荊州の統治を任されたのです」
「つまり江が言いたいのは『漢』は国家群の総称であって、孫呉は孫呉で独立した国だということ」
「その通りです。いかに強大な国とはいえ、この広大な大陸を一勢力だけで治めるなど不可能。だから各地に有力な諸侯を封じました」
「そして母様は『漢』への忠義を、この地への愛情が超えてしまったと?」
蓮華の問いに首肯で応える江。
腐敗した国の中枢と自らが命がけで護り育んできた土地、どちらに愛着がわくか自明の理であろう。その場に居合わせた諸将は桃蓮の苦悩を察し、皆押し黙る。
いくら相手が最早体をなしていない王朝とはいえ、忠臣である桃蓮の今回の決断には余程の覚悟が必要だったろう。
その覚悟は称賛にも尊敬にも値した。
「でもそうなると厄介になるのが『山越』よね〜」
しかし空気を読まない者がいた。
先ほど祭によってのけ者にされた孫伯符その人である。
「………。まぁ、それは避けては通れんじゃろうな」
少しばかり冷やかな視線を送りつつも、言っていることに間違いはみじんもないので素直に祭は同意する。これは孫呉が勢力を拡大したからこその弊害ともいえる。
『山越』
会稽以南に広く分布する少数民族の「総称」である。その血は様々なものからなり、かつて戦国の一雄として存在した『越』国の末裔も含まれている。
無論、末裔たちは、そのほかの少数民族に比べて先祖や漢から流れてくる知識、更には技術により『山越』内でも存分に優位性を示し、確固たる地位を保持していた。
そして古来より『山越』は漢の国民にとって敵という認識が大きかった。孫呉に関して
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