第六話〜指針〜
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力で押さえつけるだけの力を失ったということを意味する。
そのことを悟り、天下を獲らんという野望を抱く英傑がこの大陸にどれほどいようか。
そう、この大乱の後には間違いなく戦の世・乱世が待ち受けているのである。5年も前からその兆しは現れ始めていた。
江が賊だった頃にはすでに匪賊の横行、そして漢王朝の腐敗は始まっていたのだから。
−いずれは訪れる−
覚悟はしていた。
乱世の兆しを前に自分の国をしっかりと保ち、民を護らんがために牙をむく。江東の虎、孫呉の王はそう決意したはずであった。
しかしどれだけ武威を振るおうと、どれだけ知謀の限りを尽くそうとも敵は内に外にと溢れるばかり。中央で覇権を争い奪うものが現れれば、間違いなくこの荊州にまで戦禍が及ぶことになる。
「かつては天下の兵法家である孫武や孫?を輩出した孫家だが、やがて衰え、そして私の代になってようやく南荊州の権威を取り戻すにいたった」
そういうと桃蓮はゆっくりと立ち上がる。
その瞳には先ほどとは色の違う感情が込められていた。
「もはや孫呉の名は地に堕ちていいものではない。よって私は孫呉の名を天下に轟かせることに決めた」
完全な離反宣言。
実質的な力など持ちはしないが、いまだに権力の象徴として存在する漢皇帝を天下に戴きながら、そしてその皇帝によって荊州の統治を任されながらも桃蓮は現状を顧みてそう宣言したのだ。
国を護るために外に打って出ることに決めたのだ。
「これから先は全てが天下を取ることに直結すると思え。とはいえこれは反逆に等しい。少しでもそれに抵抗があるなら、この場を去っても構わない」
シンと静まり返る場。
しかし不思議と将の表情には困惑や疑念といった感情は現れていなかった。一番に目につくのは何らかを決意したような、そのような表情であった。
そんな中で最古参たる祭と焔が黙って臣下の礼を取る。
するとその場に居合わせた将たちは次々と臣下の礼を取っていく。その中にはもちろん江の姿があった。
自らの産みの親である施氏の言葉を思い出しながら。
『いつか孫呉の大黒柱となりなさい』
ただそれだけをかみしめていた。
一途に。盲目に。狂信的に。
それでもこのときは、何の疑念も湧かなかったのだ。その言葉が到底自分の軸になりえない『枷』であることに気付かなかったのだ。
とある都市の玉座に鎮座する白髪に白ひげを蓄えた老人。
彼からは普通の老人に感じるような雰囲気は感じない。そばにいるだけで絡みとられそうな、決して心の音を聞かせてはいけないような狡猾な雰囲気。
仏頂面の彼の手には、仰々しく漢皇帝の印を添えられた
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