第四章
[8]前話
「戦乱と流浪の中で全て失い」
「あの中では仕方ないな」
「ですから今そらんじることが出来るのはそのうちの四百です」
「四百か」
「はい、それ程です」
「それだけでもかなりのことだ」
曹操は学問好きでもある、そして国の政として学問についても残せるものは残さねばならないこともわかっていた。
それでだ、文姫にこれを機に言うのだった。
「ならばその四百巻をだ」
「それをですか」
「学問を担う官吏を十人遣わせる」
それでと言うのだった。
「そなたの言う言葉を写させよう」
「いえ、礼法では男女がみだりにです」
文姫は曹操に畏まって答えた、学者の娘らしく。
「ものを受け渡してはなりません」
「しかし書き写すにはな」
「私が全てです」
「書き写すのか」
「その四百巻を」
その全てをというのだ。
「紙と筆を拝借させて頂けるのなら」
「わかった、ではな」
それではとだ、曹操は頷いてだった。
文姫に紙と筆を渡した、すると文姫はすぐにだった。
その四百巻彼女が覚えているものを全て書いた、しかも一字も誤ることなくだ。曹操は夫を助けただけでなく素晴らしい学識と記憶力そして礼法を見せた文姫にこれ以上はないまでの賛辞を贈った。
「そなた、間違いなく天下の賢女である」
「そう言って頂けますか」
「そのそなたのこと、必ず書に書き残し」
そうしてというのだ。
「後世にも伝えよう」
「そうして頂けるのですか」
「必ずな」
ここで曹操はそれはそれとしたので彼女の夫へのことは言わなかった、だが書にはそのことも書かせた。
その為蔡文姫の夫を救った話と深い学識と記憶力、礼節の話は後世に残った。名高い中国三国時代の一人の女性の話である、知っておられる方も多いであろうが知らない方が読まれて知って頂けるのなら有り難いと思いここに書くことにした。
夫を救ってから 完
2019・3・13
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