第二章
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その彼等多くは曹操の腹心の武将や軍師、文官達であり漢の宮中に出入りしている者ばかりであった。その彼等がだ。
髪を振り乱して裸足で宮殿に入って来た文姫に驚きの声をあげた。
「あれは斎文姫殿か」
「そうだな、間違いない」
「どうされたのだ」
「何でもご夫君の董祀殿が罪に問われたと聞くが」
「先程丞相様が沙汰を下されたぞ」
「そのことか」
「しかし何というお姿だ」
文姫の今の姿について言うのだった。
「髪は梳いておられず」
「裸足のままではないか」
「化粧も身なりも何だ」
「息を切って走っておられる」
「全くどうした有様だ」
皆文姫の今の姿に驚いていた、だが文姫はそんなことは一切構わずだった。そのうえで呼び止めようとする声や前を塞ごうとする者をその気迫で退けた。常に曹操を護っている許緒にしてもだった。
今の文姫を見てだ、こう言った。
「武器を持っているなら別ですが」
「それでもですね」
「あの気迫にはな」
自身にとっては後輩にあたる典満に言うのだった、二人共非常に大きな体格をしており筋骨隆々としている。だが二人共顔立ちは剽軽な感じで恐ろしいものはない。
「わしもな」
「丞相様のところにですね」
「行かせない訳にはいかなかった」
こう言うのだった、そしてだった。
文姫は曹操の下に来た、そこで曹操の周りにいる者達が咎めようとした。しかし曹操は文姫の只ならぬ様子、外見と息を切らし汗を流すその様子を見て彼等に話した。
「よい」
「いいのですか」
「急に上昇様のところに来られましたが」
「断りも得ず順番も守らず」
「それでもですか」
「危急の用件であろう」
曹操は言いつつ内心それは彼女の夫、自分が先程沙汰を下したことのことだと察していた。そのうえでその鋭い目で言うのだった。赤い衣に英知と覇気に満ちた顔立ちがよく似合っている。只者ではないことは明らかだ。
「それならばな」
「聞かれますか」
「そうされますか」
「そうする」
こう言ってだ、実際にだった。
曹操は文姫に顔を上げる様に言った、そのうえで彼女にさらに言った。
「話を聞こう」
「はい、この度参上したのは」
文姫が言うのは彼女の夫のことだった、地に頭をすり付けて夫の罪を必死に詫びた、そうして命乞いをした。
その言葉は実に明瞭であり話の筋はこれ以上はないまでに整っていた。しかも声も澄んでいた。その為だった。
曹操もその場にいた全ての者も彼女の悲痛極まる訴えに姿勢を正して聞いた、だがそれでもだった。
曹操は確かに感じ入った、だがそれでもと文姫に告げた。
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