第一章
[2]次話
夫を救ってから
蔡文姫の一生は流転であった、学者として名高い父は戦乱とそれに伴う混乱の中で殺されてしまった。
最初の夫と死に別れ北の地に連れ去られ匈奴の者の妻となった、だが中原の覇者となった曹操孟徳にその才と彼女の家に跡継ぎがいないことを理由にだった。
漢の地に呼び戻された、そうして董祀という同郷の者と三度目の結婚をした。この時彼女は曹操に問われた。
「今の自分をどう思うか」
「言葉で表しますと」
一呼吸置いてだ、文姫は曹操に答えた。流転の人生の中で疲れが見えるが深い知性が感じられる落ち着いた美貌のある顔だ。切れ長の目はもの静かで眉の形も整っている。一文字に結んだ薄い唇には強い決意が見られ黒髪も美しい。
「この世は何があるかわかりません」
「そしてそなたの運命もか」
「まさに」
そうだとだ、文姫は曹操に答えた。
「そう思っています、そして」
「もう二度とだな」
「流転の。別れはです」
「したくはないか」
「そう思っています」
「そうか、ではこれからはな」
「まだ戦乱は続いていますが」
曹操は中原の覇者となった、しかしまだ周りには多くの群雄がいる。天下は一つにはなっていなかった。
文姫もそのことはわかっている、それで言うのだった。
「もうです」
「別れはしたくはないか」
「このまま今の夫と静かに暮らしたいです」
「それがそなたの望みだな」
「左様です」
こう曹操に答えた、そしてだった。
文姫は夫と共に静かに暮らした、父の死と二度の結婚での別れそうしたものを経てもう彼女は悲しい別れはしたくないと思っていた。
しかしその彼女のところにだ、朝早くから恐ろしい話が届いた。
「あの人がですか」
「はい」
まだ夜が明けていない、その中で家の者が文姫に話した。
「罪に問われて」
「死罪ですか」
「そうなりました」
こう言うのだった。
「今しがたその報が入りました」
「わかりました」
文姫は表情は冷静さを保っていた、だが。
動きは違っていた、起こされてすぐにその話を聞いたので身支度なぞ整えていなかった。それこそ髪も梳かず挙句は靴も履かずにだった。
急いで曹操の宮殿に向かった、その頃は早朝であったが丞相として国政の全てを見ている曹操の宮殿には多くの者達が来ていた。
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