第五章
[8]前話
「結構普通に接してくれるしな」
「サラセンの連中もな」
「黒人だっているけれどな」
「黒人の連中もな」
「俺達と一緒に接してくれてな」
「そうだからな」
それでというのだ。
「これはこれでな」
「よかったな」
「ああ、ムスリムになってもな」
「それはそれで」
「快適だぜ」
こんな話を船でした、そしてだった。
ギンガーザは港に戻った時海賊船の船長と再会した、すると船長は彼に陽気に笑って誘いをかけた。
「飲みに行くか?」
「おい、あんたムスリムだよな」
「けれどアッラーに謝ればな」
「飲めるのかよ」
「アッラーは寛容なんだよ」
偉大なだけでなくというのだ。
「だからな」
「それでか」
「ああ、それでな」
「飲みに行ってもいいか」
「久し振りに会ったんだ、どうだ?」
「それが奴隷に売ろうとした人間に言う言葉か」
「今は同じムスリムだからいいだろ」
船長はギンガーザの悪戯っぽい嫌味に豪快に笑って返した。
「そうだろ」
「そこでそう言うか」
「ああ、それでな」
「一緒にか」
「飲みに行くか、金あるだろ」
「その金で安い宿に泊まって暮らせる様になったさ」
船乗り達の為の木賃宿にというのだ。
「そして飲む金もな」
「それもか」
「ああ、それじゃあな」
「一緒に飲むか」
「アッラーよ許し給え」
ギンガーザは自らこう言った、そしてだった。
船長に案内されて居酒屋に入った、そこで二人で親しく飲んだ。ムスリムとなった彼はアレクサンドリアでも楽しく過ごしていた。そのうえで奴隷にならないでよかったと思った。それも心から。
奴隷は嫌だ 完
2019・5・11
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