第三章
[8]前話
その話を聞いてだった、李白は都から遠く離れた地でも酒を飲みながらその地で出来た友人に対して述べた。
「そうなることも運命か」
「貴妃様を殺させることを止められなかった」
「万歳老といえど」
「そのこともか」
「人は出来ないことがある」
例えそれが皇帝でもというのだ。
「だからあの方もだ」
「貴妃様が殺されることを止められず」
「涙を流すしかなかった」
「そういうことか」
「華やかな宴も悲しみのうちに終わる」
李白は遠い目になってこうも述べた、この時ばかりは好きな酒の味も酔いも感じず悲しみだけがあった。
そしてその悲しみと共にだ、こう言ったのだった。
「乱が起こってな」
「そう思うと悲しいな」
「そのはじまりがどうあれな」
「終わりが悲しいものだと」
「どうにもな」
「全くだ、私は今のあの方を詠う気にはなれない」
李白は友人達に述べた。
「悲しみに沈んだあの方をな、そして世を去られたあの方も」
「君はそうだな」
「美や雄大を詠うが」
「悲しみは避けるな」
「それを感じでも」
「それが私の詩だ、だがあの方々のことは後世にも残る」
このことは間違いないことだというのだ。
「だからだ、後世の詩人達がだ」
「詠ってか」
「そして後世に残るか」
「あの方々の幕引きを」
「その時まで詠うか」
「そうするだろう、だが私は違う」
李白自身はというのだ。
「決してな、だから今はこうして飲んでだ」
「別の詩を詠うか」
「そうするか」
「そうしていくか」
「今もな」
李白は言うと早速だった、飲みつつも。
筆と紙を用意させるとそこに次々と詩を書いていった、杜甫がかつて自身の詩に詠った様に。
その詩はどれも雄大で美しいものだった、しかしそこに玄宗も楊貴妃もいなかった。彼等の悲しみを知ってはいるが書きたくがない故に。そうしたのだった。
長恨歌 完
2019・4・10
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