第四部五将家の戦争
第七十話 再始動する人々
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五十路を迎えたばかりではあるが外務官僚としては熟達の域に達している。
駐在武官は駒城家重臣団出身の矢上大佐だ。内王道の駒州と虎城の境界に領地をもち、その為、諸将時代から対外戦争以上に匪賊討伐に精を出していた家である。
「矢上大佐にこちらを」
矢上大佐は頷いて副官の一等法務官補に書類を渡した。
彼は軍政畑の駒城家重臣団出身の将校だ。ここに回された理由の一つになるだろう。
法務官補は尉官相当官として同じように一等、二等‥‥となる。
天龍相手となると折衝の内容としては〈大協約〉と〈皇国〉法のすり合わせ等が主なものになる。軍の場合はなおさらである。匪賊討伐の立ち入り協定や受傷事故、商船と天龍、水龍のトラブル―― 大陸情勢の調査を担うアスローンとは違い、概ね〈皇国〉民や軍の財産に関係する治安行政に近い職務を担う。その為、伝統的に法務官が補佐として実務を担うことが多い。
「‥‥後は統領政会の有力者に話を通せば問題ないでしょう」
「‥‥そうなるとこちらの“網”も動かしますか?」
つるりとした禿頭を撫でるのは警備対策官の塚本警部である。その額には銀板が埋まっている。警察はその出自――衆民出身者が多数を占める――から〈皇国〉軍とは異なり積極的に導術を活用してきた。
皇室魔導院に次いで導術を活用している情報機関は水軍、収税局、内務省となるだろう。
――皮肉なことであるが最も組織的に情報組織としての導術運用に膨大な予算を投入したのは収税局であったともいわれている。こと経済の自由化による経済発展の対応の為あらゆる努力が払われていたのは良くも悪くも知られていた。警察はそれとはまた異なり土着の権威権力に浸透しつつ地道な足を使った情報活動が主力である。
だが逆にそうした強みを活かし、占領下を想定した“細胞”を作り上げていたのは公然の秘密であった。
「あぁ、そうなるだろうな。とはいっても」
「えぇ非公式に、ですが――細巻や米酒という形で手当てを」
「現金はダメか」「あちらで使うのであれば」「なるほどな」
「あの‥‥私はまだ何も気いない事に――」
「いやそれは困る、君の担当案件だからな」
「えぇっ‥‥あの、私の仕事は利益代表部として“龍上に逃れた避難民達の総合支援、および戦地、避難所における生活状況、の調査、皇国への帰還支援“なのですが‥‥」
「そうだよ、だから“龍上に逃れた避難民達の総合支援、および【戦地、避難所における生活状況の調査】、皇国への帰還支援“じゃないか」
重里は何を言うのか、といわんばかりに肩をすくめて見せた。
「君、調査は大事だよ、政策決定の為には正確な情報が必要だとも、頑張ってくれたまえ」
塚本警部は細巻を吹かしながら背を反らし、矢上大佐がにたりと笑みを浮かべて葵を見据えた。
「軍としての
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