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巣立ちの若鶴
発動! MO作戦
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けますから。それまでは、太平洋有数の大型泊地であるトラックを楽しんでください」

 



 

「……と言われてからもう五日なんだけど。ほんとに出撃するの? ねえ、翔鶴姉」

 

 ぐでーっと机の上に伸びた瑞鶴が、目の前に置かれた羊羹を一切れつまんで、口に放り込む。その味に一瞬顔をほころばせるが、すぐに元のぐでーっとした様子に戻ってしまう。はじめは、久しぶりの甘味に舌鼓を打っていたこの店も、こうも通い続けるとその効力を失ってくる。

 

「そんなこと私に聞かれてもねえ……でも、鹿島さんはずっと執務室にこもって作戦計画を練ってるみたいだし」

 

 机に伸びた瑞鶴とは対照的に、向かい側で背筋を伸ばして座っている翔鶴が、これまた妹とは対照的に、上品な振る舞いで爪楊枝に刺さった羊羹を一切れ口に運んだ。

 

 ここトラックは、太平洋戦線における艦隊の最前線の大型基地で、内地にも負けない町が用意されている。初めのうちは、二人とも楽しんでくださいね、と、言われた通り、インド洋方面での連戦の疲れを、癒すことに努めていた。しかし、休息が五日を過ぎたあたりから、何の動きもないことに、瑞鶴が文句を言って、翔鶴がそれをなだめる、というのが日課のようになっている。

 

 ついでに、今日は、新しい日課が追加されていた。

 

「むぅ〜。せっかく前線の基地だっていうから絶対に私がいっちばーん戦果を挙げられると思ってたのに〜」

「仕方ないよ。大きな作戦には準備が必要なものさ。はい、白露姉さん」

 

 差し出された羊羹に、机に伸びていた白露がぱくっと食いついた。幸せそうな顔で羊羹をほおばる姉をにこにこ眺める時雨。

 

 白露型駆逐艦一番艦白露と同じく二番艦時雨。翔鶴型の二人がインド洋方面の作戦を終えたころに出された編成替えで、二人の護衛として配属された、第二十七駆逐隊の駆逐艦である。駆逐隊には後二隻、有明と夕暮がいるが、今日は来ていない。

 

「相変わらずしっかりしてるわね、白露型の妹は」

 隣に座る「妹」の方を見ながら、瑞鶴は体を起こした。

 

「曲がりなりにも、僕は駆逐隊の旗艦だからね。姉さんはこんなんだし」

「むぅ〜、こんなんとは何よ、時雨〜。一番艦は白露なんだからね」

「そういうことはもう少し姉の威厳を見せてから言ってほしいね。ほら、隣の翔鶴さんを見習って」

「え、私?」

 

 突然話を振られた翔鶴は、肩に力を入れ、まっすぐにのびた背筋をさらに硬直させる。

 確かに、姿勢よく、上品に羊羹を口に運ぶ姿は同性から見ても時々ドキッとさせられる。威厳というか、気品のようなものが漂っているのは間違いない。

 
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