第六幕その九
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「これがね」
「そうなのね」
「この水平線を観ても思い出すよ」
ビリーナが観ている水平線も観てです、船長はとても温かい笑顔になってそうしてビリーナに言うのでした。
「外の世界のこともね」
「大変でかつ楽しかったのね」
「そうさ、あの頃と同じく」
まさにというのです。
「わしは航海をしている」
「それも嬉しいのね」
「心からね」
「船長さんのそうしたところはとても素敵ですね」
恵梨香は横から聞いて思いました。
「本当に」
「そう言ってくれるかい?」
「白鯨に会いましたけれど」
この時のことからお話する恵梨香でした。
「白鯨を追い求めていたエイハブ船長は」
「楽しんでいなかったね」
「そうでした」
「あの人のことはわしも知ってるよ」
船長は恵梨香だけでなく他の子達にも悲しいお顔でお話しました。
「わしと同じ片足だったな」
「はい、白鯨に食べられて」
「そのことからも白鯨を恨んでいてな」
「見付けて復讐しようとです」
「ひたすら思っていたな」
「そうでした」
「あの人が復讐を忘れていたら」
船長は心から思いました。
「幸せになれていたかも知れないよ」
「そうだったんですね」
「そう、けれどね」
「復讐ばかりになってしまって」
「それでだよ」
「ああなってしまったんですね」
「片足をなくした気持ちはわかるよ」
自分と同じだからというのです。
「けれどだよ」
「復讐ばかりになると」
「心がいつも寒くなってね」
「ああなってしまうんですね」
「楽しみを忘れてね」
「そういえば楽しんでいる感じはないですね」
恵梨香もエイハブ船長の姿を思い出しました。
「確かに」
「そうだよね、あの人はね」
「全然楽しそうじゃないね」
「白鯨への復讐ばかりで」
「取り憑かれている感じだったわ」
「それだけで凄く不孝なことだよ」
船長は五人にお話します。
「復讐しか頭にないなんてね」
「本当にそうですよね」
「全然楽しめなくなっていてで」
「ひたすら白鯨を追い求めてなんて」
「凄く悲しい人生ですよね」
「あの人は」
「若しあの人がオズの国に来たら」
どうかと言う船長でした。
「一度じっくり一緒に飲んで」
「そしてですか」
「そうしてですか」
「それからですね」
「お友達になって」
「それからですね」
「うん、楽しい人生を送ってもらえるようにしたいね」
これが船長のあの人への願いでした。
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