IF 完全平和ルート
偽装結婚シリーズ
偽装結婚最後の話
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「貴様にしては珍しいな。――これまで人の都合なんて気にせず、好き勝手して来たくせに」
「そう言うな。今だからこそ聞けるんだ」
はは、と顔を合わせる事無くその人は儚く笑う。
一方、滅多に無い弱音を聞かされた男は腕を組んで軽く瞳を伏せるだけに留まった。
「――ならば、オレもこの際だから色々と言わせてもらうとするか」
「へぇ“色々と”……ねぇ」
飄々とした声音に含まれているどこか揶揄する響きに応じる事無く、男は淡々と言葉を続ける。
「貴様と付き合い始めて既に数十年経ったが、その間、両手足の指だけでは到底足りない程度には、そのへらへらした顔面に風穴を空けてやろうかと思っていた」
「…………わぁ、なんか物凄い事を告白し出したな」
「付け加えるなら、先程だってそうだ」
それまでどのような戯れ言を聞かされても平然とした態度を崩さなかった男が、初めて苛立った空気を露にする。
男が発した肌を刺激する様な怒りの気配には軽く首を竦めるだけに終わったものの、男の次の言葉にその人は目を瞬かせた。
「――……貴様は一つ思い違いをしている」
「……思い違い?」
「ああそうだ」
空気が揺れて、背中越しの男が軽く嘆息したのが伝わる。
「オレが気に食わん奴と長年付き合っていられる程、気の長い性格だと勘違いしていないか? ――本当に貴様が言う様にオレが思っていたのなら、とっくの昔にクーデターでも起こして貴様の寝首を掻いているに決まっているだろう」
憮然と――それこそ呆れを多分に含んだ声音で告げられて、その人は驚いた様に目を見張る。
――そうして。
「……そっか、そうだよなぁ」
唇が綻んで、白い歯が覗く。
色素の薄い肌がうっすらと赤く染まって――。
「そうなるに決まっているよなぁ……」
――――ふんわりと、童女の様に笑った。
緑色の輝きを帯びた黒瞳が柔らかく細められ、張りつめていた頬が緩む。
無意識のうちに張っていた肩からは力が抜け、恥ずかしそうに膝頭を両腕で抱え込んでその間に頭を埋めた。
「そう、だよな。お前、冷静に見えて結構気が短いし、それに嫌な相手と長年付き合える程、器用で慎み深い性格じゃないよな」
ふふふ、と愉快そうに、それでいて照れくさそうに、その人は微笑を浮かべる。
ちらりと伏せた頭が少しだけ動いて、仏頂面で自分の方を見つめていた相手の双眸と視線を合わした。
「…………ありがと、マダラ」
「礼には及ばん」
ふい、と交差した視線は外されて、男がそっぽを向く。
逆方向を向いたままのその横顔がどのような表情を浮かべているのかは分からないが、僅かに除く両耳が赤く染まっているのに気付いて、その
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