ターン15 暗黒の百鬼夜行
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らできなかった、という方が正しいかもしれない。全身の細胞が焼け、苦痛を感じているのか感じていないのかすらもよく分からない。何もわからず崩れ落ちた彼の耳に、いくつもの足音が聞こえたような気がした。しかし、それが幻聴なのか現実なのかも判別がつかない。ただただ、何もわからなかった。
悲鳴を聞きつけた糸巻たちが階下に降りてきて真っ先に感じたものは、人間の肉が焼ける嫌な臭いだった。そして派手に大穴の空いた壁と、そこから見える巴の後ろ姿。その視線の先に無造作に転がる、焼け焦げた塊の正体に気が付いたとき彼女は息を呑んだ。
「鳥居っ!」
「うわぁ……おっと八卦ちゃん、見ない方がいいよ」
彼女の背後で遅ればせながら目の前の光景を一瞥した清明が、咄嗟に最後に降りてきた少女の後ろに回り込んでその目を手で覆い隠す。的確な対処だが、今の彼女にはそれに礼を述べる余裕などない。
「テメエ、やってくれたな……!」
「ええ、やってやりました。おかげで、なかなかいいデータが採れました。物理的な痛みよりもエネルギーの塊、それこそドラゴンのブレス攻撃のようなものの方が見ての通り苦痛の効率がいいことなどは、なかなか面白い発見でしたよ」
「ふざけやがって!」
かつての二つ名同様な夜叉の気迫を放ちながら1歩詰め寄る糸巻に、くすくすと上品に笑いながら1歩下がる巴。
「おや、よろしいんですか?そちらの彼、早く病院にでも運んで差し上げないと後遺症がますますひどくなりますよ?」
「なに?待て、どういう意味だ?」
「どういうも何も、言葉通りの意味ですよ。彼はまだ生きています、どこまで復帰できるかは別としてね。わざわざダメージだけで即死しないように出力を落としておいたのですから、むしろ感謝していただきたいですね」
その言葉に、視線は巴から離さないままに焼け焦げた鳥居の体に近寄る。近くに寄ればそれだけ嫌な臭いも強くなりはしたが、それでも弱々しくその体は動いていることも見て取れた。まだ、呼吸が続いているのだ。そしてその時気が付いたのだが、巴は今なんとも絶妙な位置に立っている。もし彼女がこの場で戦闘を強行すれば、ほぼ確実に鳥居はその余波に巻き込まれるだろう。
わざわざ虫の息で生かすことにより人質としての価値を発生させ、自分はその間に悠々と撤退する……いかにもこの男らしい、抜け目なく嫌らしい手だと歯噛みする。するが、彼女にはその意図が分かっていても止められない。鳥居がかなり危険な状態にあることはまぎれもない事実であり、彼女はそんな彼の上司なのだから。
「3対1……まあやってやれないことはないでしょうが、あまりリスクは好みませんからね。では、御機嫌よう」
それだけ言い残し、闇の中に消えていく。
「ちっ!八卦ちゃん、救急車だ!」
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