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逆さの砂時計
純粋なお遊び
合縁奇縁のコンサート 28
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 今日から何を楽しみに生きてゆけば良いのか、我にはもう、何も分からぬ。
 せめて……せめて最後に、もっとたくさん、飲んでおきたかった……。

 「ティーーーー!!」

 ガクン! と落ちた首を支え、マリアが悲愴な声で叫ぶ。
 おい待てコルダ。何故、口元を押さえて笑っておるのだ。
 この凄惨な場面の何処に、笑う要素がある?

 「本当は、教会を出る直前でお渡ししようと思っていたのですが、仕方ないですね」

 ……ん?

 「はい、どうぞ。受け取ってください、ティーさん」
 「……にゃー……?」

 一旦部屋を出たアーレストが、筒のような物を持って戻って来た。
 ような、ではないな。
 筒だ。木製のカップを細長くして取っ手を外し、蓋を被せた筒。
 蓋には、更に小さく細い筒が付いている。

 「にょにぇにゃ(これは)……?」
 「行商人や旅人が常用している物と同型の水筒です」
 「にゅいみょう(水筒)、にゃにょ(だと)!?」

 ガバッと起き上がり、飛び付いた感触で伝わった。
 筒の中身は液体だ。しかも、ほんのり温かい。
 これは、間違いない!

 「おにゃ(お茶)! みんにょにょおにゃにゃにゃ(ミントのお茶だな)!?」
 「はい。王都でも飲めるようにと、お土産に用意していたのです」
 「にゃっふぅーっ!」

 水筒を両手で掲げ、湧き上がる喜びに任せて舞い踊る。
 筒の中で、少なくない液体が揺れる。その振動が、喜びに幸せを上書きする。
 今日がお別れの時だと思っておったのに、明日も飲める。
 明日も! 飲めるのだ!

 おぉ、はっぴぃでーっ!

 「…………ティーいー?」
 「にっにっに〜…… にゅふっ!?」

 地鳴りにも匹敵する低い声に振り向けば、どす黒い(もや)を背負ったマリアが、にっこりと笑いながら水筒を取り上げた。
 我、恐怖で動けず、反論もできず。

 マリアの手からパッと消える水筒。
 無言で指し示されたポットの残骸。
 下から覗く目に、深まる黒い微笑。
 それらの意味とは、そう……人質(ものじち)
 お茶を返して欲しくば、という圧力!

 いかん!

 「にょ(ご)、にょめんにゃにゃい(ごめんなさい)! にゃいにゃにょうにょにゃいみゃにゅ(ありがとうございます)! にゃにゃにゅめみゃにゅ(片付けます)!」
 「よろしい。」

 大急ぎでアーレストに頭を下げ、破片の回収を開始する。
 腰に両手の甲を宛がったマリアが、それで良いと言いたげに深く頷いた。
 どうやら正解だったらしい。
 内心、ほっと胸を撫で下ろさずにはおられん。

 しかし、(マリア)、恐い。
 とても、恐い。
 今後は怒らせぬようにしよう。


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