暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
純粋なお遊び
合縁奇縁のコンサート 28
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「大丈夫ですか!? お怪我は!?」

 怪我は……無い。多分。
 だが、いったい何が起きたのだ?
 何故、我の背面と顔面が痛みを訴えて、我は床とキスしておったのだ?
 我の近くで聴こえた、あの破裂音は……

 と、其処まで考えて。
 徐々に明けてゆく星闇の向こうに、マリアの二の腕とアーレストの手が見え始めた。
 いつの間にか、マリアに抱え上げられていたらしい。
 心配そうに我の頭部を探るそれらの更に向こう、我が突っ伏していた場所の直ぐ近くに、割れたポットの残骸が散乱している。

 お茶が入っていた、あのポットが。

 「お……っ、おにゃ(お茶)!? おにゃにゃあああ(お茶があああ)っ!?」
 「お茶って……貴方まさか、お代わりが欲しくて……?」
 「うにゃ……うにゃああああああ!!」

 テーブルを抜け切れずに体当たりした挙句、標的であったポットを床に落として割ってしまった。
 せっかくの……折角のお茶が、我の所為で台無しに……っ!
 なんという事をしてしまったのだ、我は!!

 「うにゃあああああああああああああん! うにゃああああああああん!」

 「ティー……」
 「ティーさん……」

 一度零れた水は、二度と元には戻せない。
 器に入っていたお茶も、器が壊れてしまったら戻しようが無いではないか。
 あの尊いミントのお茶は、これでもう、終わり。お終い。
 我が、我自身の体で、終わらせてしまったのだ。

 もう、飲めない。

 「にゃあああああああああああん!!」

 「……(自業自得だと思うが)」

 うるさい黙れレゾネクト。
 人型のお主に、我の気持ちが解って堪るか!
 ゴールデンドラゴンの体では、どうやっても(短い手足と出っ腹が邪魔で)お茶なんか淹れられんのだぞ!
 アーレストのお茶が、今の我の唯一の楽しみだったのに!!

 「えーと……大丈夫ですよ、ティーさん。元々、ポットの中身は(から)でしたから」
 「にゃ!?」

 (から)!?
 え!? 空!?

 「ティーさんに四杯目を注いだ後、残りが少量だったので、マリアさんに飲んでいただいていたのです。ですから、ほら。床は濡れていないでしょう?」

 アーレストが指した場所は、確かにあまり濡れていない。
 破片に水滴が少々付いている程度だ。
 つまり、我が四杯目を飲んでいた時点で、あのポットは、(から)

 計画、最初から無意味。
 我、無駄足。
 超・無駄足。

 「に、にみゃあ〜……」
 「! ティー! 大丈夫? しっかりして!」

 (しお)れるように脱力した我の体を抱え直し、頬をぺちぺち叩くマリア。

 ああ、我が愛おしい娘・マリアよ。
 我はもう駄目だ
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