タルクセナート
あてられる切っ先
[8]前話
目覚めた手下の身のこなしは速かった。すかさずユスフの喉元に、ダガーを突き付けてきた。
「貴様何をした!答えろ!」
手下は怒鳴り付ける。この時、覆面の隙間から覗く緑色の瞳、刃を握る華奢な手、そしてその高い声から、ユスフはこの者が女であることにようやく気がついた。一通り訓練はされているようだ。しかし、なんと説明して良いのやら。正直に犬か狼の幻術だと説明するわけにもいかない。
「やはり、貴様も例の闇の使いの者か!?ならば尚更、ここで殺す!」
鬼気迫る女に詰め寄られるユスフ。後ずさりして小屋の外に出る。
「止めろ!ベスリム!」
その時ドミトリーの大音声が、ユスフとこの女の間に割って入る様に響いた。ドミトリーはゆっくりこちらに歩いてくる。
「ベスリム!よせ!刃をしまえ!さもなくば明日は連れていかぬぞ!」
「くっ!」
渋々女はダガーをしまう。 そして、足早にその場を去って行った。
「すまぬ。奴は余り都の方の人間のことを、良くは思っておらぬのだ。」
寧ろ、良く思っている人間などいるのだろうか?ふとユスフは思ったが、それよりも気になったことをドミトリーに訪ねた。ドミトリーはしばらく考えた後、口を開いた。
「・・・闇の使いか。そもそもその様な名前が適当なのかもわからぬが、我々はそう呼んでいるな。何年か前から、人なのか、獣なのかわからぬ者が村々を襲うということが起きた。何者かわからぬのはそれを見た人間は漏れなく殺されたからだ。ある時、ある村にもその闇の使いが現れたそうだ。村人は皆殺された。かろうじて、一人だけ生き残った娘がいた。井戸の中で夜通しに一人で隠れていたそうだ。それが先ほど無礼を働いたあの小娘だ。」
ユスフは黙って聞いていた。
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