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『賢者の孫』の二次創作 カート=フォン=リッツバーグの新たなる歩み
死闘
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(この魔物は数多の人を喰らってきた。人を狩ることに慣れている。やつの動きは人の行動を予測して攻撃してくる――だがその予測こそがこいつの弱点!)

 SYAッ! SYAッ!

 爪による連続攻撃を大きく跳んでかわす。だがそれによってカートは壁の隅に追い込まれた。

「おいっ、追い詰められたぞ!」
「ああっ、ダメだ!」
「あれじゃあ逃げ場がない!」
「……死ぬぞ」

 だれの目にも窮地。だがカートの心に恐怖はなく、魔物の動きを頭から尻尾の先まで冷静に観察する。

(逃げ場のない隅に追い詰めたにも関わらず、すぐには襲ってはこない。こちらの動向を探っているな。獲物の逃げ道をふさいでなぶり弱らせて確実にしとめる。猫科の猛獣の性に魔物の狡猾さと凶悪さがそうさせる。こいつが次にとる行動は先ほどのように飛び込んでの体当たりではなく――)

 SYAAAッ!

 魔物の前肢が伸びる。

(やはり前肢での攻撃か! 剛力よりも俊敏さを、攻撃力よりも命中率を優先して剣の間合いの外から、致命傷を負わせるよりも傷つけ弱らせるのが目的! だが獣も人とおなじで踏み込みの浅い攻撃は見切りやすくなる)

 カートはわずかに身体を揺らすだけで前肢による攻撃をことごとく避ける。

(……たとえ訓練でもホーゲンの攻撃はもっと強く、速かった! それに予測もつかなかった! それにくらべたらこの魔物の攻撃など、どうということはない。ホーゲンの鍛練を思い出せ!)

知己知彼(かれをしりおのれをしれば)百戰不殆(ひゃくせんあやうからず)。個人の戦闘も集団の戦争も、相手を知ることがなにより肝要だ。相手がどんな武器を持ち、どれだけの技術なのか、なにが得意でなにが不得手なのか、なにを喜び、なにを恐れるのか――。相手のすべてを把握しろ。歩き方、重心のかけ方、目線の動き、体格や身長からは筋肉のつき方、骨格、間接の稼働域、体長による間合い。肉眼で見える範囲だけでもここまでわかる。気を読めばさらに知ることが可能だ。相手が発する敵意や憎悪、怒りや憎しみ、焦りや恐れ、喜び、悲しみ、妬み、慢心などの感情を把握し、利用することができればいかなる戦いを制することができる」

 カートの目には表情なき魔物の顔に喜悦を見た。

(魔物は俺を追い詰めたと思って慢心している。俺をなぶり殺すための攻撃がその証左、それゆえ攻撃が単調になり読みやすい)

「お、おい 。見ろよ!」
「なんだあの動きは!?」
「魔物の攻撃がまったく当たらない」
「爪をすべてかわしている!」

上体を柳のように揺らして力を抜き、相手の攻撃が起こす風圧によって自然に避ける絶技【柳葉逍体】
小さい円を描くような素早い足捌きで相手の間合いにとどまったまま攻撃をかわし続けることができる【無歩連環
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