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『賢者の孫』の二次創作 カート=フォン=リッツバーグの新たなる歩み
死闘
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てはいけないんだ。ここで棄権したり、だれかの助力があれば俺はただの愚者。一生笑われることになる。いや、それだけじゃない。Zクラスを、Sクラスに威圧される生徒たちを奮起させる機会が永遠に失われる。負けられない、負けるわけにはいかない。勝てないのならいっそ魔物の牙にかけられ果てたほうがましだ! たとえ愚かでも戦って死ねば挑戦者としての尊厳を保つことが――)

「喝ーッ!!」

 闘技場を揺るがすほどの大音声が響いた。
 声の主は法眼だ。
 観覧席の一画、Sクラスの陣取る場所に立っている。

「死して不朽の見込みあらばいつでも死ぬべし! 生きて大業の見込みあらばいつでも生くべし!」
「ハッ!」
「目的を見失うな、カート。おまえは強大な力に萎えた人々を奮い立たせるために魔物と戦い、勝つのだろう。捨て身や死中に活を求めるような戦いかたで散ったところで無駄死にだぞ。生きろ。勝って生きろ。生きて勝て。勝つんだ!」

(そうだ、なにを恐れる。俺には成すべきことがある。やるべきことをやらずに死んでたまるか!)

 魔物の前肢を寸前で身を翻してかわすと同時に手にした剣を一閃。法眼より授けられた【神雕回嘴】の絶技が魔物の剛毛を削り、血を散らす。

(もう逃げはしない、負けはしない。恐れ怯え、怒り憎しみ、あきらめ……。魔人となったような過ちを二度と犯すものか! 法眼は俺を信じて技を伝授した。その心を裏切れるものか!)

 浅傷とはいえ手傷を負った魔物がいきり立って襲いかかる。

(怯まずに視ろ! 魔物の、虎の動きを……っ!! 肩の激痛を怒りに変えろ! 恐怖するおのれの心に怒れ! 痛みも怒りも恐れも、すべての感情感覚を魔物を倒す思考の一点に集中。 点滴穿石、とく心を細くせよ。水滴のみが石に穴を穿つ!」

 魔物の猛攻を右に避け、左にかわす。だがそれは相手の攻撃に恐れおののき、がむしゃらに逃げていた先ほどの動きとは別だ。
 あたれば致命傷となる牙や爪の攻撃を寸前で見切り、受け流す。
 尾による横殴りの打撃をわずかに跳んで避ける。
 冷静な防御。

「お〜、カートのやつ動きが変わったぞ。あんたが檄を飛ばしたからかな」
「……『檄を飛ばす』とは遠くにいる同志に決起を呼びかけるという意味で、相手を叱咤激励するという意味はまったくない」
「あ、そうなの?」

 この無学者め!
 法眼は喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。相手はまだ一〇代の子どもだ。十は歳上の自分が本気になるのも大人げない。

(獣は強い、魔物はもっと強い! 速さも力も体格も体重も人は魔物に劣る。だが人の持つ知恵と技には限界などない!)

 魔物相手に一進一退の攻防が繰り広げられる。
 逃げ回る様から一転、互角の勝負に観客らは盛り上がり、歓声があがった。

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