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ある晴れた日に
86部分:小さな橋の上でその二
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小さな橋の上でその二

「とにかく。じゃがいもなくしてはね」
「薩摩芋がないとね」
「あんた本当に薩摩芋好きね」
「あんたもじゃがいもがね」
 最早この意見の相違は完全に平行線になってしまっていた。こうなってはどうしようもない。じゃがいもと薩摩芋は同じ芋であっても本質的に全く異なるものだからだ。
「全く。あたしも薩摩芋は大好きだけれど」
「咲だってじゃがいもも好きよ」
「どっちも好きなのかよ」
「本当に芋蛸南京だよな」
 昔から女が好きなものとされているのだ。芋蛸南京に蒟蒻と芝居の五つだ。この二人については芋がとりわけ傑出しているようである。
「とにかく。じゃがいもはね」
「薩摩芋は至高よ」
「どっちも好きならそれでいいんじゃねえのか?」
「わからないわよね」
 皆やはり二人のこだわりには首を捻るばかりであった。
「何が何だかよ」
「どういうこだわりなのよ」
「何なら今度決めてみる?」
「何で?」
「芋勝負よ」
 また随分と土臭い名前の対決であった。
「じゃがいもと薩摩芋がね。どっちが美味しいか」
「面白そうね」
「うわっ、せこい対決だな」
「芋料理でかよ」
 お世辞にも高級な料理対決とは言えないものがここにはあった。じゃがいもも薩摩芋もその料理はどうしても家庭的になってしまうのだからだ。
「それでいいかしら」
「ええ。別にいいわよ」
 咲も茜の申し出を受け入れる。
「というか望むところよ」
「わかったわ。じゃあキャンプから帰ったらね」
「勝手にしとけよ」
「誰も芋なんかで怒ったりしねえからよ」
 皆二人のこのやり取りには完全に中立だった。本当にどうでもいいといった感じであった。
「まあそれでよ」
「ああ」
 とりあえずこの下らない対決から話を必死に逸らすことにした。最初に言ったのは春華だった。
「今日レクレーション何だったっけ」
「オリエンテーションよ」
 未晴が春華のその問いに答えた。
「それはね」
「そっか。オリエンテーションか」
「ええ。山のあちこちにクイズが置いてあってそれを少しずつ解いていくらしいわ」
「ふうん。まあよくあるレクレーションだな」
 春華はそれを聞いてまずは納得する顔になった。
「いいんじゃね?カレー食いまくってこのままじゃ太るしな」
「御前かなり食ってたよな」
「ああ、そうだよな。今だって」
 野茂と坪本がこう春華に言ってきた。
「もう三杯目だろ?」
「しかも山盛りでよ」
「育ち盛りだからだよ」
 その山盛りの飯に納豆をたぷりとかけていた。おかずは卵焼きである。
「どうしてもよ。食わないとよ」
「やっていけねえのか」
「まあそれは俺達も同じだけれどな」
 彼等も彼等でかなり食べている。二人共その飯は山盛りである。
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