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戦国異伝供書
第五十五話 足利将軍その十三

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「織田殿のお話を聞きますと」
「酒もですね」
「お好きに思えますが」
「それがです」
「飲めないのですから」
「そこはわからないですね」
 どうにもというのだ。
「酒のことは」
「こればかりは」
「人の好き嫌い、鮭の強い弱いは」
「人となりや武の強さとは」
「また違うもので」
 それでというのだ。
「飲める人とです」
「飲めない人もですね」
「いて」
 そうしてというのだ。
「わたくしは飲めてそれも好きで」
「織田殿は飲めない」
「そういうことになりますね」 
 兼続に飲みつつ話した、話す間もどんどん飲んでいて既にその量はかなりのものだ。しかもそれが止まる気配はない。
「どうも」
「そういうことですね」
「はい、しかしわたくしは」
 輝虎自身はというと。
「今宵は特に」
「飲めるというのですね」
「はい、肴に月もあるので」
 その月も見て言うのだった。
「非常にです」
「酒もですか」
「美味いので」
 それでというのだ。
「今宵は許してもらいたいですね」
「仕方ないとはです」
 どうかとだ、兼続は主にすぐに述べた。
「言えませぬ」
「厳しいですね」
「殿は毎晩ですから」
「飲んでいると」
「しかもその量がです」
 ただ飲むだけでなく、というのだ。
「あまりにも多いので」
「言えませぬか」
「はい」
 そうだというのだ。
「それがしも」
「貴方は特に厳しいですね」
「酒は百薬の長といいますが」
「それがですね」
「過ぎると毒になります故」
 だからだというのだ。
「それがしはお留します」
「それ故ですか」
「そうです、神変鬼毒といいますが」
「酒呑童子ですね」
「それは人も同じです」
「過ぎれば」
「その時点で」
 まさにというのだ。
「毒になります」
「薬ではなく」
「それ故にです」
 あくまでこう言うのだった。
「それがしもです」
「今宵もですか」
「はいと言えませぬ」
 深酒を見過ごせないというのだ。
「殿はどうしてもですし」
「はい、酒だけは」
「困ったことです」
「そう言われましても」
 応える間も飲んでいる。
「わたくしにとっては」
「酒については」
「どうしてもですから」
「やれやれですな」
「では」
「今宵もですな」
「このまま」
 こう言ってだった。
 輝虎はまた飲んだ、それで言うのだった。
「こればかりは許してもらいたいものです」
「駄目だと言われてもですか」
「そうです」
 こう言ってまた飲むばかりだった、こうして輝虎はこの夜も飲んだ。彼にとって酒はどうしても離れらぬものだった。


第五十五話   完


                 2019・6・23
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