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戦国異伝供書
第五十五話 足利将軍その十一

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「見事な資質をお持ちですが」
「それでもですか」
「野心もまた大きく」
「それがまた出てしまっていて」
「武田殿以上に多くのものを求められている」
「そうした方ですか」
「はい、ですからそこをあらためてもらい」
 そしてというのだ。
「わたくしと共に」
「天下を泰平にして」
「そうしてですな」
「その泰平を守る」
「そうしてもらうのですな」
「そうしてもらいます、では」
 あらためて言うのだった。
「これよりです」
「越後に戻りますな」
「そしてそのうえで」
「また動かれますな」
「そのつもりです」
 こう言ってだった、輝虎は越後に戻った。そうして夜に城の本丸で酒を飲んでこんなことを言った。
「いや、やはりです」
「越後の酒がですか」
「美味いですか」
「そう言われますか」
「はい」
 まさにというのだ。
「他の国の酒もよかったですが」
「殿にとってはですな」
「酒はやはり越後」
「お国の酒が一番ですな」
「何といってもです」
 こう言うのだった、家臣達にも。
「馴染みがありますので」
「そして酒は塩か梅ですな」
「今は梅ですが」
「それが一番いい」
「殿にとっては」
「わたくしは贅沢は好みません」
 この気質は変わることがない。
「しかしです」
「酒はですな」
「それだけはですな」
「旅の時も飲まれていましたし」
「越後に戻られても」
「飲まずにいられません」
 夜になると、というのだ。
「どうしても」
「左様ですな」
「ではその酒を飲まれ」
「そしてそのうえで」
「心よく酔い」
 見れば飲んで顔は赤くなっているが乱れない、輝虎は酒を飲んでも乱れることは決してないのだ。それで今もだった。
 幾ら飲んでも乱れない、それで言うのだった。
「このまま飲まれて」
「そうしてですな」
「心地よく飲まれれば」
「その後で、ですな」
「休まれますな」
「そうします、しかし今宵は」
 ここで月を見上げた、それで言う言葉はというと。
「月が奇麗ですね」
「確かに」
「黄色い満月ですな」
「色も大きさも形も」
「実にいいですな」
「はい、この素晴らしさは」
 今宵の満月のそれはというのだ。
「何とも言えません、その月を眺めながら飲むのは」
「よいというのですな」
「実は」
「そうだというのですな」
「はい、ですから」
 それでというのだ。
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