第五十五話 足利将軍その九
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「考えていますので」
「今は、ですか」
「お館様と呼んでも結構ですが」
それでもというのだ。
「これまで通り殿でもです」
「構いませんか」
「左様です」
こう直江に話した。
「わたくしは」
「左様でありますか」
「はい、そしてわたくしはです」
「幕府をですか」
「必ずや。幕府の剣になり」
そうしてというのだ。
「貴方の子が言う様な」
「そこまでの力をですか」
「お渡ししましょう」
「そうされますか」
「それを誓いました」
こう直江に言うのだった。
「公方様にも貴方達にも私自身にも、そして」
「天下にもですね」
「誓いました、無論神仏にも」
彼が思う全てにというのだ。
「ですから」
「天下を必ず」
「あるべき姿に戻します、ですが」
ここで輝虎はこうも言った。
「間違っても鎌倉幕府の様な」
「ああした姿にはですか」
「してはいけないですね」
「あの幕府はどうも」
直江も難しい顔で述べた。
「それがしもです」
「どうかと思いますね」
「はい、公方様が」
即ち頼朝がというのだ。
「あそこまでのことをされては」
「九郎判官殿を殺したことは」
「よくなかったですね」
「源氏の嫡流は身内同士で殺し合い」
そしてだったのだ。
「遂には誰もいなくなりましたね」
「幕府の前からそうであり」
「その後もです」
幕府が開かれてからというのだ。
「身内同士で殺し合い」
「その結果として」
「誰もいなくなりました」
つまり完全に血が絶えたというのだ。
「それを見ますと」
「どうしてもですね」
「わたくしにしてもです」
「その様には出来ないと」
「今の幕府も既に過ちを犯しています」
輝虎は悲しい顔になって述べた。
「初代様の時に」
「弟君をですね」
「片腕でもあられましたが」
足利尊氏とその弟である足利忠義のことだ、高師直と共に兄を支えていたがやがて袂を分かって最期は暗殺されたという。
「残念なことになりました」
「そうでしたね」
「そして四代様も」
義持もというのだ。
「弟君を」
「あの方もそうでしたね」
「そうしたことはです」
「何があろうとも」
「繰り返してはなりません、ただどうも源氏は」
この家のことも言うのだった。
「身内で争いますね」
「因縁ですな」
宇佐美が苦い顔で言ってきた。
「それは」
「そうとしか言い様がないですね」
「どうにも」
宇佐美が見てもだった、このことは。
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