第五十五話 足利将軍その八
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「わたくしは」
「左様ですか」
「はい、四百万石にですね」
「天下の金山銀山にです」
「貿易もですか」
「近頃堺では南蛮貿易もしていて」
兼続はこちらの話もした。
「堺の商人達は大層儲けていますが」
「その儲けを力とする」
「幕府の、他にも明との勘合貿易もです」
「大内家が行っている」
「それもしてです」
「儲けてですか」
「力を蓄えれば」
それでというのだ。
「大きな力になります」
「そうですか」
「逆にこうまでしないと」
「幕府は力を取り戻さないですか」
「幕府も色々ありました故」
兼続はこうも言った。
「これまで」
「そうですね、思えばです」
「六代様の頃より」
足利義教だ、苛烈で酷薄な将軍だったと言われている。己に歯向かう者や意に添わぬと見た者は容赦なく殺していき挙句は次は自分達かと恐れた赤松家に宴に招かれその場で殺された。ここからだったのだ。
「幕府は揺らぎ」
「公方様の弑逆から」
「そして応仁の大乱で」
「特にそれでしたね」
「恐ろしいまでの混乱が生じ」
「天下は乱れに乱れ」
「そしてです」
そこまであってというのだ。
「幕府はその力を殆どなくし」
「今に至るまで」
「細川様とも争い」
「あの争いは全く以て本末転倒でした」
苦い顔でだ、こう言ったのは直江だった。
「管領となればです」
「公方様をお守りし盛り立てるものですね」
「そうだというのに細川様は」
「公方様と争い」
「幕府を余計に弱めました」
「六角殿もでしたね」
「そうでした」
近江の守護であるこの家もというのだ。
「公方様と争いまして」
「爆破余計に弱り」
「そうしてでした」
「あの有様ですね」
「山城一国をかろうじて治める」
もっと言えばその山城一国ですら満足に治めているとは言えない、そこまで落ちたというのである。
「そうした有様です」
「それが今の幕府ですね」
「その幕府の力を取り戻そうと思えば」
それこそというのだ。
「相当なお覚悟が必要です」
「覚悟は出来ています」
輝虎は直江に毅然として答えた。
「最早」
「左様ですね、殿いえ」
ここで直江は自分の言葉を訂正した、実は輝虎は義輝から『お館様』と呼ばれることも許されたのだ。殿より上ということだ。
「お館様は」
「殿でも構いません」
「どちらでもですか」
「はい、正式にそう呼ばれるには」
その為にはというのだ。
「武田殿をあらため織田殿もです」
「家臣とされてからですか」
「お二方をわたくしの両腕とした時に」
「その様にですか」
「呼ばれる資格があるとです」
その様にというのだ。
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