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緋弾のアリア ──落花流水の二重奏《ビキニウム》──
かごのとり
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の掟をも口にすることを知っていた。星伽の人間は、生まれてから死ぬまで身も心も生家を離れてはいけないのだ──ということを。


「だから、神社と学校以外は許可なく外出しちゃいけないんだよ」


哀傷を吐きながら、白雪はキンジを横目で見詰め返した。()っと据えられたその瞳の最奥に、彼女が零した哀傷よりも更に深いものがある──そう感じずにはいられなかった。
少なくとも彼女は、生家にあるこの慣習が平々凡々なものだとは微塵も思っていないだろう。だからこそ、彼女なりの懊悩や煩悶といったものを──その平和の象徴の鳩のような、いじらしい胸の内に多くを秘めているのだということは、分かりすぎる以上に分かりきっていた。

その瞳の色を、とうの昔から彼は知っている。その記憶を、懐古するともなく懐古してみた。
彼と彼女とは幼馴染である──幅を広げて言えば、遠山家と星伽家の間には関係があるらしい。そんな縁故から、キンジは星伽の総本山である星伽神社に赴くことも度々あった。男子禁制の神社のはずなのに、遠山家だけは出入りが許可されていたのだ。そうして、そこには白雪が居た。

少女たちのうちの1人に、白雪が居た。キンジが「神社の外で遊ぼう」と言った時の、その少女の瞳の色は、彼女がいま見せているその色とまったくの同色だと断言できる。子供ながらに、この神社は何か異様なのだ──と感じずにはいられなくて、思わず亡き兄に零してしまっていた。
そうして兄もまた、該神社は尋常一様ではないというような意味を零したのを覚えている。


「彼女たちはさしずめ、かごのとり──だろう」


それに哀憐の意味が込められていると気が付いたのは、昔のことではない。
永遠に星伽神社の境内というかご(・・)に囚われた、巫女というとり(・・)だ。

──一族ゆえの、制約という名の手枷。
──逃れられぬ運命と、藻掻いても変えられぬ運命。
──虚弱な小鳥は、籠の中。悠久の刻を、身を滅ぼすまで。

今も昔も変わらず、その現状に彼は、酷く憐情と瞋恚(しんい)とを覚えた。
そうして、胸の中で小さくその言葉を転がすのだ。何度も何度も、かごのとり──と。
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