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冬木市にやってきたアルトリアズのお話
帰宅
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始まりに前触れはなかった。
 
その日も、今までと変わらない一日だった。
 
俺は普段通り目を覚まし、普段通り飯を作った。
 
藤ねぇも普段通りやってきて、普段通りに飯を食った。
 
桜も普段通りの笑顔でそれを見つめていた。
 
普段通りに学校に行き、普段通り遠坂に弄られ、普段通り一成と飯を食った。
 
普段通りに授業を受け、普段通りに桜と遠坂と夕飯の材料を買い、普段通り帰宅した。
 
普段通り玄関にはイリヤが待っていて、俺は普段通りにイリヤに抱き着かれる。
 
そう。
 
全てはいつもと変わらなかった。
 
たった1つ。
 
そう、そのたった1つの異変さえなければ。
 
 
台所で俺は夕飯の材料を広げる。
 
今日の料理当番は俺だ。
 
今日は例年にない冷え込み具合なので寄せ鍋にしようと思っていた。
 
俺は材料を切り、鍋に出汁や材料を入れ、煮る。
 
視線の先には、テレビの前で寝っ転がっている藤ねぇ、その横で正座をしてテレビを見ている桜、その後ろで掃除をしている遠坂、隣でおやつをつまみ食いしようとしていたイリヤがいる。
 
普段と変わらない日常の一コマだった。
 
士郎「イリヤ、いまおやつを食べたら、鍋食べられなくなるぞ」
 
俺はイリヤが手に持っていたお菓子の袋を取り上げる。
 
イリヤ「大丈夫よ!私はシロウのご飯ならいくらでも食べられるんだから!」
 
イリヤはむんと胸を貼る。
 
作っている側としてはこれ以上とない褒め言葉であるが、俺はそう言われても袋は返さない。
 
士郎「いいから、もうすぐ出来るからそっちを食べてくれ」
 
イリヤ「むー。いいわ、そう言うのなら、今日の鍋戦争は白熱するわよ!私も参加するんだから!」
 
そう言って藤ねぇを指さす。
 
藤ねぇ「えぇ!?分け前減るじゃなーい!士郎、おやつくらいいいでしょー!?」
 
飛び起きて自分の取り分のためだけに藤ねぇはこちらに抗議してくる。
 
まったく、この大人は…。
 
士郎「だーめーだ。さ、テーブルを拭いてきてくれ」
 
俺はイリヤにおやつの袋ではなく水で絞った布巾を渡す。
 
イリヤ「分かったわ。シロウが言うんだもの」
 
藤ねぇ「これは…普段と同じ食べ方ではまずい…新たな戦略を…」
 
その様子を俺は苦笑いを浮かべつつ見守る。
 
ふっ、と、そこにある人を重ねる。
 
いや、重ねるというよりは、そこに想像の中で出現させる。
 
士郎「……セイバー…」
 
小さく、小さく、それこそ虫の羽音の方が大きいかと思わんばかりの小さな声で俺はボソッと呟く。
 
聖杯戦争が終わってからもう一週間が経った。
 
多くを知り、多くを得たが、失った
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