episode9『家族に』
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でずっと、怠慢にも、手を差し伸べられるのを待っているだけだったのだ。だから今度は、自分から踏み出さなくてはいけない。
家族に入れてくれる、ではない。家族に“なる”のだ。だというのに、こちらが踏み出さなくてどうするというのだろう。
勇気を出そう。前を向こう。
これは、自分が踏み出さなくてはいけない問題だ。
「……やっぱり」
「?」
不意に、シンが小声で呟く。どうしたの?と視線で問いかけるヒナミにシンは気恥ずかしそうに笑って、ぽつりとつぶやいた。
「いや、やっぱり笑うと、特にかわいいなぁと思って」
「……か、かわ……っ!?」
ぼっと顔を赤くしたヒナミは視線を右往左往させて、やがて耐えきれなくなったのか逃げるように毛布を深く被り直す。頬を掻いて苦笑したシンは柵に両手でもたれ掛かると、道頓堀の夜景に目を戻した。
「僕はもうしばらくここに居るけど、ヒナミはどうする?」
「……もうちょっとだけ、一緒に居る」
「そっか」
そう言ったシンは、笑って空に浮かぶ数少ない星を見上げる。その隣で少し顔を出したヒナミは不服そうにその横顔を見上げると、不意打ちを受けたお返しのように、小声でぼそりと呟いた。
「……寒さで傷が悪化して、ともよに怒られても知らないよ」
「うぐっ」
ひゅっと目をそらして体をこわばらせるシンに少し笑って、ぐるぐるにくるまっていた毛布を開く。その端に手を掛けたヒナミは少しだけ手を振って勢いを付けると、シンの肩に思いきり余った布部分を投げ掛けた。
突然の行動に目を丸くするシンに、ヒナミが少し耳を赤くしてそっぽを向く。
「……シンが寒くなくても体には悪いんだから、入ってて。まだ、全然大きさは余ってるから」
「……いいの?」
「いいのっ!」
言い切ったヒナミの圧に押されて、シンもまた毛布に身を包む。ヒナミがずっとくるまっていたこともあって熱が籠っているのか、若干のぬくもりが残っていた。といっても、シンがそれに気づく事はないのだが。
とん、と毛布の中で肩どうしが触れる。シンの冷えた体温が、寝間着越しにもはっきりと伝わってきた。
「……寒い」
ぽつりとヒナミが、微笑みながらそんな声を漏らす。
――きゅっと、シンの小指を遠慮がちに握りながら。
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