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ある晴れた日に
723部分:清き若者来るならばその九

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清き若者来るならばその九

「音橋・・・・・・いえ正道君ね」
「はい」
 彼についてはその呼び名さえ途中で訂正したのだった。
「特に貴方にはね」
「俺ですか」
「これまで本当に有り難う」
 まずは過去から話したのだった。
「そして今もね」
「今も」
「未晴が言葉を出してくれたから」
 そのことが何よりも嬉しいのだった。母としてである。現在もなのだった。
「そのことには幾ら御礼を言っても足りないわ」
「それはこいつが」
「言わせたのは貴方よ」
 しかし晴海は彼に謙遜することをここでは許さなかったのだった。
「そうね」
「俺がですか」
「ええ、貴方が」
 まさに彼がだというのだ。
「貴方がそうさせてくれたのよ」
「だからですか」
「ええ、有り難う」
 口も目も微笑んでいる。しかしそれは真剣な微笑みであった。その微笑みを彼に向けてそのうえで告げた、そうした言葉だった。
「本当にね」
「有り難うございます」
「それに」
 言葉はこれで終わりではなかった。さらに言ってみせてきたのである。
 過去、現在の次はだ。語られるのは。
「これからもね」
「これからもですか」
「ええ、これからも御願いね」
 未来についても言うのだった。彼に未晴の、娘の未来を預けるというのだ。そこまで言ってみせたのである。
「未晴を」
「わかりました」
 そしてだった。正道はその言葉を受けた。こくりと頷いてだ。
「それじゃあ」
「御願いするわね。本当にね」
「未晴は何があっても元に戻ります」
 正道の答える言葉は強いものになっていた。
「俺が戻します」
「そう思ってくれたから未晴はここまでなってくれて」
 晴海の目に涙が宿ろうとしていた。
「そして今も。これからも」
「また俺達と一緒に遊べます」
「そうね。一緒にね」
 その濡れてきた瞳での言葉だった。
「なれるのよね」
「それじゃあ今から」
「ええ、御願い」
 ここから先は言葉はいらなかった。心でわかることだった。
「この娘をね」
「はい」
 こうして未晴を植物園に連れて行くのだった。晴海は医者と看護婦と共にそれについていってである。あのコスモスのところに来たのだった。
「ここでだったよね」
「そうだったな」
 そのコスモスが咲き誇る前で話す一同だった。温室で温度等が調整されている為に冬でもコスモスが咲いているのである。今もだ。
「未晴に見せて」
「手が動いて」
「覚えてるわよ」
 忘れる筈がなかった。とてもである。
 そして今もだ。そのコスモスを皆で見るのだった。だがここで正道が皆に言うのだった。彼は今も未晴の車椅子を後ろから引いている。その彼が皆に対して言ってきたのである。

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