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ある晴れた日に
720部分:清き若者来るならばその六

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清き若者来るならばその六

 歌い終わってから未晴を見てであった。その後で彼女に言うのだった。
「よし、これで」
「いいわね」
「未晴、聴いてくれたわよね」
 するとだった。瞼が動いた。僅かではあったが。
「動いたわね」
「え、ええ」
「今確かに」
 五人だけでなく皆もだ。それを間違いなく見た。彼女の瞼が確かに動いたのだ。
「手の次は瞼」
「それじゃあ本当に」
「届いているんだ」
「未晴、わかってるのね」
 晴海もその彼女を見て娘に告げた。
「皆の心が」
「じゃあこれで」
「このままやっていけば」
「それで」
「そうだな」
 次に出て来たのは正道だった。
「俺もだ」
「次は御前なんだな」
「そうするのか」
「その歌を」
「ああ、歌わせてもらう」
 もうギターはケースに出していた。そうしてだった。
 その曲を奏で歌うのだった。それも未晴の前で歌ってだ。最後まで歌うとであった。
 未晴を見る。彼女は。
 唇が少し動いた。それから。
「あ・・・・・・」
「言葉!?」
「今言葉を」
「言ったよな」
「ええ、間違いなく」
「今確かに」
 皆聞いた。それで慌てて確かめ合う。
「それじゃあ本当に」
「喋ったんだ」
「未晴が」
「やっと」
 そしてだった。彼女はさらに言葉を続けてだ。そして言うのであった。
「ありがとう」
 確かに言った。一言だが確かにだ。確かに言ったのである。
「俺にか」
「そうだね」
 桐生が正道に言ってきた。
「言ったよ。今確かに」
「皆のことが届いたんだな」
「特に君のことがね」
「何て言ったらいいか」
 彼は今は言葉がなかった。どう言えばいいかわからなかったのだ。今の状況にだ。
「少しな」
「こういう場合はね」
「どうすればいいんだ?」
「手を握ればいいよ」
 そうすればいいというのだ。
「竹林さんの手をね。それでいいから」
「そうか。それでいいのか」
「うん、それでいいから」
「わかった」
 彼のその言葉を受けてであった。その手を握るとだった。確かなものを感じた。
「温かい」
「温かいんだね」
「今までで一番温かい」
 そうだというのだ。
「一番な」
「そう、温かいんだね」
「手だけが温かいじゃない」
 その他のことも感じ取っていた。
「他も温かいな」
「それも感じるんだね」
「全部感じる」
 こうも話すのだ。

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