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戦国異伝供書
第五十四話 上洛その三

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「考えています」
「左様ですね」
「あのままでは」
「何時何があるか」
「噂を聞くだけですが」
「管領の細川様だけでなく」
「家臣の三好殿、特にです」
 あえてだ、政虎はまたこの男の名を出した。
「松永殿は」
「危険ですか」
「美濃の斎藤殿、美禅の宇喜多殿と並んで」
 それでというのだ。
「今の本朝で最も悪い」
「そうした方ですね」
「ですから」
「殿としましては」
「はい、何とかです」
 まさにというのだ。
「近畿も正しい姿に戻し」
「そのうえで」
「公方様もです」
「お守りしたいですね」
「そして戦国の世も」
 それもというのだ。
「何とかです」
「終わらせたいですね」
「そう考えています」
「左様ですか」
「その考えを公方様にも」
 足利義輝、彼にもというのだ。
「お話したいです」
「ではその為にも」
「この度上洛します」
「殿にとってはそうしたお考えもありますか」
「左様です、では上洛しましょう」
 政虎は二十五将に兼続そして上杉家の中でも選りすぐりの猛者達を選び彼等と共に春日山城を発った。一行は服も旗も具足も全てが黒であり。
 その黒を見てだ、政虎はこうも言った。
「まさに長尾家の黒ですね」
「そうなりましたな」
 本庄が応えた。
「この黒づくめは」
「はい、これは長尾家代々の色ですが」
「他にも色を持っている家はありますな」
「武田家は赤で」 
 その晴信の家だ、政虎にとっては宿敵であり何処かで心が通じ合っている相手だ。
「北条家は白、織田家は青と」
「それぞれ色を持っている家がありますな」
「そのそれぞれの家が」
「大きくなりますか」
「おそらく天下で大事を為すのでしょう」
「そして当家も」
「思えば毘沙門天は北を守護します」
 多聞天はそうした存在だ、北を守護する四天王の一人だ。
「その北の色が黒であり」
「長尾家も黒ですな」
「わたくしが毘沙門天を信じることも」
「そこにも縁があったのでしょうか」
「そうかも知れないです、ですから」 
「この天下で」
「黒を持つ家として」
 この色をというのだ。
「必ずです」
「大事を為されますね」
「そしてその大事とは」
「戦国の世を終わらて天下を長く泰平にする」
「それが大事とです」
 まさにというのだ。
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