第三章
[8]前話
「私はな、だが」
「それでもですか」
「あれはそなたを試したのだ」
「私をですか」
「そなたの信仰がどれだけ強いのかをな」
それをいうのだ。
「見たのだ、そしてだ」
「私の信仰は、ですか」
「強い、誰よりもな」
「ですが私は疑念を抱き躊躇しました」
イブラーヒームはアッラーに自らの逡巡のことを話した。
「実際に」
「そうだな、だが人は弱いものだ」
「だからですか」
「疑念を抱き躊躇するのも当然だ」
このこともというのだ。
「それはいい、だがそうしたものを乗り越え」
「そしてですか」
「どうするかが重要でだ」
それでというのだ。
「そなたは私の神託に従った」
「だからですか」
「いいのだ」
「左様ですか」
「そして生贄はな」
これは実際にというのだ。
「いい」
「では」
「そなたを試しただけだ、そしてそなたはだ」
「アッラーの試しにですね」
「応えてくれた、このことを大いに祝福しよう」
こう言って彼に多くの素晴らしいものを捧げた、そしてだった。
その後でだ、イブラーヒームはアッラーに言われた。
「そなたはこれからもだ」
「イスラムの為にですね」
「教えを広めるのだ」
こう言うのだった。
「よいな」
「わかりました」
イブラーヒームはアッラーに素直に答えた。
「そうさせて頂きます」
「そなたが教えを伝えてな」
そしてというのだ。
「後に続く者達の道を敷くのだ」
「その様に」
イブラーヒームは神に謹厳な声で答えた、そうしてだった。
我が子と共にメッカにも移りイスラムの信仰を伝えた、この頃はまだこの教えに頷く者は少なかった。しかし彼の行いが後の預言者達の糧となりやがてはムハンマドに至った。この何処までもアッラーを信じることを決意した生真面目な男がイスラムに果たした役割は実に大きなものだったとコーランでは書かれている。
息子を生贄に 完
2019・5・14
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