第一章
[2]次話
息子を生贄に
預言者イブラーヒーム、キリスト教のアブラハムはこの時悩んでいた。それはどうしてかというと。
妻にだ、彼はその悩みを話した。引き締まった端整な顔立ちが黒い髭に似合っている。
「昨日夢を見たが」
「その夢がですか」
「恐ろしい夢だった」
こう妻に言うのだった。
「アッラーが私を試されたが」
「どういったものだったのでしょうか」
「我が子を生贄に捧げる」
「生贄、ですか」
「イスラムで生贄はない」
これを戒めてさえいる。
「断じてな、しかしだ」
「アッラーはですね」
「私達の息子をな」
「それはまた」
「生贄にすべきか」
イブラーヒームは妻に問うた。
「そうすべきか」
「ですがアッラーは」
妻は夫に深刻な顔で答えた。
「決してです」
「生贄は求められないな」
「はい、そして私も貴方も」
「子供が可愛い」
イブラーヒームはその気持ちも述べた。
「何といってもな」
「何よりも誰よりも大事ですね」
「その我が子を生贄に捧げるか」
「そのことは」
「出来るものではない」
到底と言うのだった。
「どうしてもな、だが」
「夢のことは」
「そうだ、アッラーが告げられたのだ」
そこでというのだ。
「その様にせよとな」
「では」
「これは神意だ」
イブラーヒームは苦しむ顔で言った。
「アッラーのな、なら」
「それならですね」
「そうだ、我が子をだ」
まさにというのだ。
「生贄としてな」
「捧げますか」
「そうせねばならないが」
しかしとだ、イブラーヒームは言うのだった。
「それはな」
「辛いですね」
「我が子だ」
誰よりも愛するというのだ。
「その我が子を生贄にするなぞ」
「出来ないですね」
「しかも疑念もある」
「アッラーは生贄を求められない」
「偉大なるアッラーはまがいものの神とは違う」
イヌラーヒームはイスラムの教えも話に出した。
「本物の神だからな」
「そうです、そのアッラーがです」
「生贄を捧げるなぞな」
それはというのだ。
「有り得ないともだ」
「思いますね」
「そうだ、しかしな」
「それでもですね」
「アッラーの神託だからな」
それ故にというのだ。
「私としてはな」
「従わざるを得ないですね」
「疑念があるし辛い」
アッラーが生贄を求めるか、そして愛する我が子を生贄に捧げたくはない。イブラーヒームは苦悩を感じていた。
[2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ