第四章
[8]前話
榎本はファン達に一礼してからランニングに戻った、ファン達はその彼を見送ってからあらためて話をした。
「凄いな」
「全く以てな」
「一日おきにマラソンか」
「そこまでするなんてな」
「現役時代と変わらないな」
「若しかして現役復帰を考えているかもな」
「それでも不思議じゃないな」
こうした言葉も出て来た。
「とにかく凄い奴だな」
「現役時代も凄かったが」
「今もな」
「相変わらずと言うべきか」
彼等はこうしたことを話した。
そしてこの話は巷の野球ファンの間で語られる様になった、もっとも巨人しか知らない衆愚の知る由もない話である。
だが心ある野球ファン達はこの話を伝えていってだった、西本の耳にも入り彼はその話について語った。
「あいつならやるやろな」
「そうしたこともですか」
「あんだけ野球に熱心な奴はおらん」
それ故にというのだ。
「そこまでするわ」
「そうですか」
「わしもあいつは知ってる」
「そういえば監督は」
「そや、毎日でな」
西本の現役時代の話だ、彼は戦争前から終戦直後は大学野球から職業野球を渡り歩きそうしてプロ野球の世界に入ったのだ。
そしてその入団したチームが毎日で榎本もそのチームに入ってだったのだ。
「わしの現役の最後の方に来てな」
「ポジションも同じで」
「ファーストでな、それで知ってるからな」
榎本自身をいうのだ。
「あれだけ野球特にバッティングのことしか頭にない奴はおらん
「そやからですか」
「あいつやったらな」
まさにというのだ。
「やるわ」
「一日おきに四十キロ走る位は」
「するわ、高校時代からずっと野球一筋や」
そうした人間だからだというのだ。
「それならや」
「引退した今も」
「それ位はするわ、あいつやったらな」
西本は笑顔で話した、そしてだった。
榎本についてだ、彼はこうも言った。
「ああした野球人がおることもええことや」
「そうですね、そこまで野球が好きで熱心な人がいると」
「日本の野球にとって有り難いことや」
こうも言うのだった、榎本を知っているが故に。
榎本喜八はとかく野球特に打撃に賭けた男だったことは知られている、そのひたむきで真摯もっと言えばそれしか頭にない様な野球人生は今も知られている。その中でこのランニングの話もある。マラソンの様なことをして野球を見ている、そうした野球人がいたということをここに書き残しておきたい。一人でも多くの人がこの人のことを知ってもらいたいが為に。
走る人 完
2019・3・13
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