第一章
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走る人
その噂を聞いた時阪急ブレーブスの監督西本幸雄はまさかと思った。
だがすぐにだ、こう言った。
「けどな」
「それもですね」
「あいつやったらな」
「有り得ますか」
「あいつは野球一筋や」
そうした人間だからだというのだ。
「わしもそう言われるけどな」
「監督以上ですね」
「もう頭の中に野球しかないな」
それこそというのだ。
「そうした奴やからな」
「そのことはですね」
「有り得る、あいつはな」
「何でも高校時代は」
西本に話す新聞記者はこうも言った。
「毎朝五時に起きてですね」
「五百回素振りしてな」
「それで寝る前もですね」
「五百回素振りしてや」
そうしてというのだ。
「合わせて最低でも千回な」
「素振りをしていましたね」
「そんな奴さかいな」
それ故にというのだ。
「あいつやとな」
「ありますか」
「あいつは長嶋以上の天才でや」
西本は自分の大学の後輩にあたりかつ日本プロ野球界の顔にもなっている長嶋茂雄の名前も出した。
「もうほんまに野球のことしかな」
「頭にないので」
「そうしたこともな」
「有り得ますか」
「そう思う、そやからな」
それでと言うのだった。
「有り得るわ」
「そうですか」
「あいつはな」
これが西本の見立てだった、だがこの話を知らない者もいた。ある東京在住の野球ファン達はこの時真夜中まで飲んでいた。
そうして東京スタジアムの方を歩きつつこんな話をしていた。
「もういい加減巨人の優勝ばかりだとな」
「面白くないよな」
「何が九連覇だよ」
「目指せとかな」
「そんなことになってもな」
「いいことなんかないぜ」
「もう飽きたよ」
巨人の優勝、それはというのだ。
「そもそも川上が自分の邪魔になる人片っ端から追い出してな」
「そのうえでの長期政権だしな」
「青田、与那嶺、千葉、別所、広岡ってな」
「全部追い出してな」
「あれだろ?あいつ昔役者の丹波哲郎いじめてたんだろ」
ここで一見野球とは別の話が出た。
「そうだったんだろ」
「ああ、軍隊で一緒でな」
戦争中の話も出た、まだこの頃は第二次世界大戦の名残が残っていたのだ。今話している彼等にしても戦争を肌で知っている。
「それでその時丹波哲郎が下にいてな」
「いじめられてたんだな」
「階級が上の人にはへらへらしてな」
川上哲治はそうした人間だったというのだ。
「階級が下だとな」
「きつくあたったんだな」
「それで部隊に秘かに回覧が回ってたらしいぜ」
その回覧はというと。
「戦場に出たら川上は後ろから撃てってな」
「それで始末しろってか」
「そんな奴だったらしいぜ」
「それで今巨人の監督か」
「
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