第二章
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「貴方は何故そう言われるのですか」
「私がそう言うかわからないか」
「どうしても。貴方は私を妻に迎えましたが」
「だからだ」
「だからなのですか」
「妻だから大事に思う、ここでは異国の女が妻であることはだ」
このことはというのだ。
「ごく普通のことだ、それでそなたが妻になってもだ」
「漢の、長く戦ってきた国の女でも」
「変わらない。私以外にも漢の女を妻にした者はいるしな」
「そのこともあって」
「私はそなたを妻をして見ている、そして妻だからだ」
それ故にとだ、単于は王昭君にさらに話した。
「そなたを大事に思っている、だから今帰られずともな」
「世を去れば」
「その時は帰るといい、私はその時いないかも知れないが」
「それでもですか」
「そなたは帰れ、この国がどうしても嫌ならな」
「見渡す限り草で」
匈奴の地はそうした場所だ、草は白く凍てつく様な寒さで空も何処までも続き果てで地と一つになっている。
人は馬そして羊と共に暮らし家ではなく皮と木で建てたその中に住んでいる。漢とは何もかもが違う世界だ。
その世界のことをだ、王昭君は今話した。
「何もかもが違っていて」
「それがだな」
「私にはどうしても」
「馴染めぬな、ではだ」
「心を、ですか」
「戻すことだ。漢にな」
世を去ったその時にというのだ。
「それまで待っていることだ」
「そうですか」
「だがそれまではそなたは世の妻だ」
ここで単于は王昭君に顔を向けた、そうしてひたすら祖国の方を見ている彼女に対して厳かな声で話した。
「そのことを忘れるな」
「承知しています」
「では気が済むまで見てだ」
そのうえでとだ、単于は妻にまた告げた。
「中に戻れ」
「あの皮の家の中にですね」
匈奴のその家にというのだ。
「そうせよというのですね」
「そうだ、いいな」
「わかりました」
王昭君は夫の言葉に頷いた、そうしてだった。
夫がその場を去ってからも日が落ちるまで白い草しかない草原の上で南を見ていた。そうした日々を過ごし。
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