第一章
[2]次話
青塚
遠い異郷の地に来た、王昭君はその地に入ってだった。
そしてだ、いつも南の方を見ていた、その彼女に夫となった復株累単于はこんなことを言った。
「漢の地が恋しいか」
「はい」
王昭君は自分の後ろから声をかけた夫の方を見ずに答えた。着ている服は漢の服のままで髪型もその様に結っている。長い睫毛のある目は切れ長で澄んだもので紅の唇は小さく引き締まっている。細い顔は白く雪の様だ、細い体は柳を思わせる。
その白い顔を南に向けたままだ、彼女は夫に言うのだった。
「ですから」
「そうか、なら好きなだけ見ているといい」
「そうしていいですか」
「そなたがそうしたいならな」
夫は匈奴の服を着ている、羊の皮と毛の服だ。それで全身を覆っており顔も精悍で勇ましいものである。
その顔でだ、南を見る妻に言うのだった。
「そうしているといい、だが」
「帰ることはですね」
「適わぬことはだ」
それはというのだ。
「わかっているな」
「もとより。だからこそです」
「今もこうしてか」
「見ています」
遠くにある故国をというのだ。
「こうして。そして」
「やがてはか」
「心だけでも」
それだけでもというのだ。
「戻りたいです」
「心か。ならだ」
夫は妻のその言葉を聞いて今度はこう告げた。
「この世を去った時にな」
「その時にですね」
「戻ればいい」
その時にというのだ。
「今は戻れない、だが」
「それはですね」
「死ねば違う、ならだ」
「この世を去ったその時に」
「戻るのだな」
異国からだ、故郷にというのだ。
「その時はそなたの好きな様にするのだ」
「その言葉痛み入ります。ですが」
気付けば夫は妻の前に来ていた、そうして彼女に背を向ける形で立っていた。王昭君はその単于に対して話した。
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