第三章
[8]前話
「憎しみの塊になってる人もいるよ」
「相手に対してですね」
「そうなってる人も見て来たけれど」
「ああした人はですか」
「俺も見たことないよ」
一度もという口調で言うのだった。
「本当にね」
「やっぱりそうですか」
「いや、大変な人だよ」
山河は今度は首を傾げさせて述べた。
「本当にね」
「それでお仕事は」
「していくけれど。こっちの話は聞かないし」
「それならですね」
「こっちでご主人ともお話をして」
離婚のもう一方の相手である彼と、というのだ。
「あちらの弁護士さんともそうしていって」
「そしてですね」
「お話をしようか。あの人じゃ話にならないし」
夫の悪口ばかり言ってだ、それでだった。
ゆかりは弁護士達から相手にされなくなった、それはブログやツイッターでも同じで徐々に彼女のそうしたSNSを見る人はいなくなった。そして友人や親戚達も。
「もうどうしようもないわね」
「旦那さんへの悪口ばかりで」
「止めたらって言っても聞かないし」
「それじゃあね」
「もう相手にしないでいよう」
「まともじゃなくなってるから」
こうしたことを言って離れていった、そうして彼女は無事に離婚出来たが。
それでも彼への悪口を言い募っていた、口を開けばだった。それで職場でも完全に誰からも相手にされなくなり。
挙句にはだ、最初は自分についてきていた子供達もだった。
父親の方に行った、その時彼等は言った。
「もうお母さんじゃないから」
「いい加減にしたら?」
ゆかり自身に言った、彼等にも口を開けば夫そして別れた彼への悪口ばかり言っていたからだ。それでだった。
彼等も去った、遂にゆかりは一人になった。それでもだった。
ゆかりは相手の悪口を言い続けた、だがもうそれを聞く者は誰もいなかった。ゆかりがどうなったのかはやがてだった。
病を得てそうしてだった、この世を去った時にだった。彼女を知っていた誰もが言った。
「最低の人だったわね」
「本当にね」
「人間ああなったらおしまいね」
「何があっても」
こう言うのだった、ゆかりの葬儀は実に寂しいものだった。ただ死んだ、それだけのものであり家の墓に骨が入れられたが彼女に対して手を合わせる者もいなかった。それがゆかりへの人達の評価であった。
最低の人 完
2019・3・3
[8]前話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ