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戦国異伝供書
第五十三話 三度南へその十

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「拙僧はお館様の為ならです」
「是非か」
「働かせて頂きます」
「そう言ってくれるか」
「お館様と共に駿府に来てから」
 都からというのだ。
「そう決めていますので」
「だからか」
「その様に」
「それで外のこともか」
「やらせて頂きます、それでこれからは」
「当家のことはか」
「拙僧の後はです」
 このこともだ、雪斎は義元に話した。
「やはりです」
「竹千代じゃな」
「あの者を当家の執権にされるべきです」
「当家に代々仕えている者達よりもじゃな」
「他の方々も当然用いられるべきですが」
 それでもというのだ。
「竹千代もそれなりの領地が三河にあり」
「うむ、優に万石を越えるな」
 この時点の元康の領地でもそれだけはある、今川家の中でかなりの領地を持っているのは事実である。
「大きさは充分じゃな」
「確かに譜代ではないですが」
「それでもあの資質からしてじゃな」
「必ずです」
「今川家の執権にか」
「はい」
 こう義元に言うのだった。
「そうされて下さい」
「そうじゃな、よき縁組も用意したしな」
「それもですな」
「お主に言われたからであるが」
 義元にしてもというのだ。
「あの者に相応しいな」
「良縁ですな」
「うむ、当家の重臣の一つにじゃ」
「松平家自体を」
「入れたいしのう」
「ではやがては」
「麿が上洛して将軍になればな」
「管領にもですな」
「しようぞ」
「その様に」
 雪斎は義元に笑顔で応えた、そしてだった。
 義元が帰ってから自身の寺に戻ってだった。元康を呼んで彼と共に般若湯つまり酒を飲みつつ話した。
「この度のことよく見ておいたな」
「はい」
 元康は雪斎にしかとした声で答えた。
「しかと」
「そうじゃな、これもまたじゃ」
「政ですな」
「そうじゃ、戦は出来るだけな」
「せぬ様にして」
「血は流さぬ様にする、それでいてな」
 さらに言うのだった。
「求めるものを手に入れる」
「この度は」
「両家の戦を止めてじゃ」
「それを恩として」
「そしてじゃ」
 そのうえでというのだ。
「あの国もな」
「そうですか」
「そうじゃ、そしてじゃ」
 そのうえでというのだ。
「ここから当家は武田家、北条家とじゃ」
「確かな盟約を結び」
「西に向かう」
 そこにというのだ。
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