三章 天への挑戦 - 嵐の都ダラム -
第37話 愚かな実験
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れだけではなく、「お前はどこの国の工作員だ?」と、ダラム発展に嫉妬する国の手先ということにされてしまった。
「実験が終わったら王都の役人に突き出してやる。拷問されるだろうから覚悟しておけ」
抗議もむなしく、二人は拘束されてしまっていたのである。
(シドウ。どうするの?)
ティアが聞いてくる。
シドウたちの眼前には、待機しているローブ姿の魔法使い軍団。雨が激しいため、声量を抑えさえすれば二人の会話が聞こえてしまう心配はない。
(この紐なら変身すれば切れそうだ。何か起きそうだったらすぐ変身する。巻き込んで踏むといけないから、少しだけ離れているよ)
三角座りしたままシドウはモゾモゾと動き、ティアから少し距離を確保した。
そうこうしているうちに、風雨は一段と激しさを増した。
座っていても、体が持っていかれそうになる。視界もますます悪くなってきている。
まもなく実験開始のタイミングなのか、風雨の音の中、怒号のような指示がはっきりと聞こえてきた。しゃがみ込んでいた魔法使いたちが、全員立ち上がる。
シドウは風雨に打たれながら、それを見守っていた。
誰が考えた計画なのかは知るべくもないが、理論としては今吹いている南東からの風に巨大な風魔法をぶつけて相殺することで、熱帯低気圧の渦を弱めてしまおうというものである。
(そんなのは無理だ)
シドウは今回使用される風魔法の威力を知らない。
だが、どんなに大きな威力の魔法をもってしても、不可能であると思っている。たとえ世界中の魔法使いがここに集結しようとも、だ。
これだけ大きな自然事象を、一生物が消そうとする。それがどれだけおこがましいことか。
そして、万が一成功しようものなら、さらに大問題になると思っていた。
南に住まう神々が夏の暑さに怒り、北へと暑さを捨てた――。
昔のその言い伝えは、まったくのでたらめとは言えない。シドウは師匠より、熱帯低気圧には南の熱を北へ運ぶという大切な役割があることを教わっていた。それを人為的に消せるようになってしまえば、その歪みによってこの世界はとてつもないことになるかもしれない。
「全員構え!」
シドウの思いもむなしく、リーダーとおぼしき人間の叫び声が聞こえてきた。魔法使いたちが、両手のひらを上前方に突き出す。
「始め!」
シドウの目が驚愕で見開いた。
?を打ち続けていた横殴りの雨と風が、止まったのである。
突然室内に移動したかのような感覚にもなったが、もちろん空はびっしりと黒い雲に覆われているままだ。
風で雨が風上方向に押し戻され、この場に届かなくなったのだ。
一点に集中するのではなく、広がるように。面≠ナ風を起こせる魔法。
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