暁 〜小説投稿サイト〜
逆さの砂時計
純粋なお遊び
合縁奇縁のコンサート 27
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vol.35 【はしれ! まりあさま】

 街の中では、あまり積もらないのね。
 初めて歩く石畳は所々水分を含んで変色してはいるものの、其処に在るべき雪の厚みは殆ど見当たらない。屋根の上や道の片隅、植物の周辺や建物の影に隠れる場所でちょこっと固まってる程度。
 石造りの水路を流れる水も凍り付いた様子は無く、さらさらと心地好い音を立てている。
 街を取り囲む石壁の外側では結構な積雪量になっていたのに、不思議だわ。街全体に積雪を防ぐ何かが施されているのかしら?
 アーレストさんが購入してくれた雪国御用達の底厚ブーツをコツコツ鳴らしながら教わった通りの道順を進んで行くと、広場を中心に据える十字型の大きな市場に辿り着いた。
 見上げた灰色の空からは、細やかな花弁をそのままに舞い落ちる白い花。空気はピンと張りつめて静寂を形作り、鳥の声すら響かせない。
 それでも街民達は昨日と変わらない生活を続ける為に、厚着姿で買い出しに足を運んでる。
 暖かい地方とは違って大声で客引きをするお店は無いのね。お客さんも店員さんも、大人達は皆、寒そうに両肩を丸めてる。
 子供と犬は嬉しそうに駆け回っているけど……あ。数人の友達と遊んでいた男の子が派手に転んで、母親と思しき女性に怒られた。友達は「やべー、逃げろー!」と声を合わせて笑いながら散開していく。
 母親に叱られて縮こまった男の子は自身の服の裾を握り締めて、去って行く背中を恨めしそうに横目で睨んでる。
 「ふふ。平和ねぇ…… っと、いけないいけない」
 思わず微笑を溢してから傍観してる場合じゃなかったと首を横に振り、猫耳ではない毛糸の帽子を、髪先が隠れるまでしっかりと被り直す。
 万が一にも飛ばされたり脱げたりしないよう、顎下に通した紐もきっちり結び直しておかなくちゃね。
 そう、私には目的がある。
 本来交わるべきではない人波に紛れ込んででも、日が暮れる前に絶対成さなければならない目的が。



 「こんにちは」
 「いらっしゃ……おや? 見掛けない子だね」
 「はじめまして。私、先日この街の親戚に会いに来たばかりなんです。直ぐに帰る予定なんですけど……それで、友達へのお土産を買いたいって相談したら、この市場で探してみると良いと教わったので」
 実際には一ヶ月以上前から教会内に居たし、探しているのは友達へのお土産ではないけれど。
 「ふぅん? 礼儀正しい、しっかりしたお嬢さんだ。うちの孫にも見習ってもらいたいねぇ」
 「恐縮です」
 「親戚付き合いがあるって事は、お嬢さんの家も北方領内?」
 見た目六十歳前後で人が好さそうな民芸品売りのおばさまは、私の言葉にうんうんと二回頷いて、陳列されている商品の数々に目を走らせた。
 どういう物が良いかを考えてくれてるのね。迅速な対応と気
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