暁 〜小説投稿サイト〜
遊戯王BV〜摩天楼の四方山話〜
ターン14 鉄砲水と手札の天使
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背後の本棚に勢いよく激突したその体は、大量の埃を巻き上げて一時的に視界を遮る。

「おいアンタ、どうした?大丈夫か……って、おいおい」
「えっと、脈はあるね。頭を打って気絶してるから当面は起き上がれませんよーと。何、おねーさんの知り合い?」
「まあな。アタシもあんま知らん奴だけど、一応は元同業者だ。つまりプロ崩れのテロリストだな。デュエルディスクが起動中ってことは、誰かとデュエルしてたのか」

 倒れたままピクリとも動かない人影に駆け寄って生命の無事を確かめ、ついでその腕で起動したままのデュエルディスクに目をやる。そのライフポイントが0を示しているところからしても、ちょうど敗北の瞬間に立ち会ったらしい。
 ならば問題は、その相手である。そして誰よりも早い反応を見せたのは、いまだに清明が召喚しっぱなしにしていた幽鬼うさぎだった。赤い目の光と宙に浮かぶ人魂の炎の軌跡を後に引き、辛うじて目で追いかけるのがやっとのスピードで開きっぱなしの小部屋へと飛び込んでいく。その姿を見てすぐさま立ち上がった清明がその後に続いたのを見て、慌てて八卦も糸巻の手を引き後に続く。そこに、彼女はいた。

「あなたは……!」

 それは、昨夜に八卦の見たままの姿だった。ただし先ほどの男が持っていたのであろう「BV」の影響か、その体は以前のように透けてはいない。ほのかに青みがかった癖のない銀髪も、全体的にやや大きめでその小さな体にはいささか持て余し気味な修道服も、誰が見てもいっぱいいっぱいなことが見て取れる張り詰めた表情やそれに相応しい今にも決壊しそうなほどに涙を湛え潤んだ大きな瞳や、その左腕に装着されて起動したままのデュエルディスクも、その全てが実態をもってここにいる。
 そんな少女を目を細めて見つめた糸巻が、ややあってポツリと呟いた。

儚無(はな)みずき、だな」
「え?」
「あのモンスターの名前だよ。見覚えがある、確か爺さんのカードショップにも1枚売ってたはずだ」

 そう言われ、改めて目の前で警戒もあらわにする精霊少女を見る。確かにあの姿は、少女にも店の手伝いをしている最中に見たことがあるような気がしないでもない。しかしそんな精霊少女の存在に誰よりもほっとしたような表情を浮かべたのは、他ならぬ清明だった。

「みずきちゃん、ね。やっと見つけた、会いたかったよ。とりあえずうさぎちゃん、説得ゴー」

 おそらく、先ほどの男は下の男ともどもこの儚無みずきを狙い、それを精霊少女が返り討ちにしたのだろう。となると今の段階では人間の話など聞く耳持たないだろうと、傍らの幽鬼うさぎの頭にポンと手を乗せる清明。すぐさまその仕草に込められた普段から自分で何でもやりたがるこの主には珍しい行動の意図を察し、愛用の鎌を手にしたままに和装の少女が歩を進める。


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