ターン14 鉄砲水と手札の天使
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なるにつれて窓から差し込んだ月明かりに照らされその足元から浮かび上がった。その顔を見て、糸巻が忌々しげに吐き捨てる。
「なんだなんだ、アンタの面なんぞ拝むなんて今日は厄日か?なあ、おきつねさま。巴光太郎さんよ」
「狐は神獣であると同時に、凶兆の獣でもありますからね。学のない貴女にしては、存外知的な発言ですね。そして知的という概念は、貴女には似合わないことこの上ない。ねえ、赤髪の夜叉。糸巻太夫さん?」
にこやかな笑みを浮かべながら現れたその男が、自分を見つめる視線をぐるりと見渡したのちにゆっくりと一礼する。しかしその目を真正面から見た時、八卦は背筋も凍るような思いがした。一見慇懃にも見えるその態度や口元の笑みは、全て仮面に他ならない。少女は知らない。この男がつい先日の裏デュエルコロシアムを巡るデュエルポリス達の戦いにおいて、妨害電波の通用しない新たな「BV」と実体化するカードを武器に糸巻と文字通りの死闘を繰り広げ、実際に彼女を後1歩のところまで追いつめた男だということを。
しかし、その叔父譲りの人間を見極める目は本物である。その目ざとい感覚は、事前知識のない少女にも目の前の男が根からの危険人物だと全力で警鐘を鳴らしていた。
「お、お姉様、この人」
「わかるか、八卦ちゃん。これはアタシの昔の同業者だが……めんどくせえ奴と鉢合わせたもんだ。いいな八卦ちゃん、絶対にアタシの後ろから出るんじゃないぞ」
おきつねさま……巴からは片時も目を離さないままに、糸巻が繋いだままの手をぐっと引っ張って少女の体を自分へと近づける。握られた手から伝わる心臓の鼓動から、彼女の緊張が少女にも伝わってきた。
そして睨みあう元プロデュエリスト2人の視線を断ち切るかのように、鳥居がその間へと強引に割り込む。
「巴光太郎、名前だけは聞いたことがあるぜ。『糸巻さんと並ぶぐらい腕は立つくせに』、性格はとんでもない地雷野郎だってな」
それだけ吐き捨てて1瞬だけ振り返り、真後ろの糸巻へと必死のアイコンタクトを送る。彼の言わんとすることを阿吽の呼吸で察知した糸巻は、視線は外さないままにじりじりと階段の方へと後ずさり始めた。
これは、鳥居が咄嗟に編み出した作戦だった。彼も事後処理の一環で、あの裏デュエルコロシアムで彼が暴れている間に糸巻が何をしていたのかはすでに聞いている。巴の糸巻に対する異様な敵対心と憎悪についても、無論彼の知るところだ。それゆえに彼は今、わざと糸巻の名を引き合いに出したうえで挑発した。巴光太郎という人間が彼の聞いた通りの男であるならば、糸巻と対比したうえでどちらが上ともつかせないようなセリフは何よりも堪えるはずだ。
果たして、その挑発は成功した。眉間にしわを寄せ、あからさまな敵意の乗ったその視線の向く先が糸巻から彼へと移る。
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