ターン14 鉄砲水と手札の天使
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んの少しだけ過去を振り返るかのように遠い目をし、すぐに現実に引き戻る。膝を曲げて目線の高さを合わせつつ、そっと片手を差し出した。
「僕と一緒に、来てくれないかな。もちろんみずきちゃんのためでもあるけど、隠し事は無しでいこう。正直なところを言うと、これは僕のためでもあるんだ。僕は、もっともっと強くなりたい。今のままじゃまだ足りない、今のままじゃ何も、できやしない……!」
そこで喋っているうちにこみ上げてきた感情を押さえつけるためか、差し出した手はそのままにぐっと目を閉じ奥歯に力を込め歯を食いしばる。こののほほんとした少年の過去に一体何があったのか、それは糸巻や八卦の知るところではない。しかし今の1瞬だけ見えたその表情は、よほど手ひどい地獄を見たのであろう過去の存在をうかがわせる。
そして、かつて「BV」によりそれまでの生活の全てを失った糸巻には、ちょうどかつての自分と目の前の少年の姿がダブって見えた。それだけにそんな訴えが他人事とは思えずに、表情を曇らせ目を伏せる。煙草は、いつの間にか吸い終えていた。
「……だから、お願い。僕と、一緒に来て」
永遠にも思えるような時間が過ぎた。とはいえ実際のところ、その間はせいぜい数秒程度だったのだろう。まっすぐに目を上げて清明を見つめた儚無みずきはやがて何かを決心したようにおずおずと近寄り、そっとその手に自身の小さな手を重ね合わせる。さらに空いたもう片方の手を懸命に伸ばし、かがんだままの彼の頭をそっと撫でさする。
「……」
これまでで一番の優しい微笑みを浮かべたその体が明るい光に包まれて消えていくと、残ったのは清明の手の上の1枚のカードのみ。それがこの幽霊騒ぎのそもそもの原因となった、たった1枚のカードなのだろう。立ち上がった彼がそれをそっと掴んで見つめ、自らのデッキを取り出してその一番上に追加する。
「ありがとう。じゃあ、改めてこれからよろしく」
万感の感謝のこもったその言葉にまたひょっこりと空中から現れ、コクリと小さく頷く儚無みずき。そしてまた消えていく精霊少女を見送ったのち、後ろの2人へと振り返る。
「さあ、早いとこ下に戻って」
しかし、その言葉を最後まで言い終えることはできなかった。彼の言葉を断ち切るかのように階下からはっきりと聞こえたのは、まぎれもない苦痛の悲鳴。
「ぐ……うわあああぁーっ!」
「この声……」
「鳥居、どうした!?チッ、仕方ねえ、行くぞ!」
「まったく、次から次へと忙しいったらありゃしない!」
感慨に浸る間もなく、すぐさま小部屋を飛び出して最初の階段を駆け下りる3人。踊り場に辿り着いたとき見えた光景に、糸巻は息を呑んだ。
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