第五十三話 おさづけの理その二十八
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「この寮から出るって思うと」
「悲しいですか」
「悲しいというか寂しいというか」
どうかといいますと。
「不思議な気持ちよ」
「そうですか」
「ええ、どうもね」
こう阿波野君にお話しました。
「もうすぐ終わりかって思うと」
「そうですか、僕は自宅生なんでよくわからないですが」
「そうなのね」
「はい、寮のことは」
「三年暮らしていたから」
その間色々なことがありました、長池先輩のこと以外にもです。他の先輩のことに同級生とのこと、後輩の娘達とのことと。
寮には先生もおられます、先生方のことも思うとでした。
「思い出がね」
「一杯あってですか」
「そこを出るってなると」
「色々考えてしまうんですね」
「そうなの、寂しい様な悲しい様な」
「寂しいっていうとご両親と離れるので寂しくなかったですか?」
「凄く寂しかったわ」
また入学の時のことを思い出しました。
「あの時はね」
「やっぱりそうですよね」
「だから余計に不安だったし」
もうこれからどうなるか、このこともまた思い出しました。
「もうお家に帰りたくなったわ」
「そこまでだったんですね」
「そうなの、凄くね」
今思うともう神戸まで歩いてでも、でした。
「そうしたくて仕方なかったわ」
「やっぱり親元離れると寂しいんですね」
「そうよ、それでも三年間いたのよ」
今目の前にある東寮にです。
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