第五十二話 籠城戦その一
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第五十二話 籠城戦
駿河でも動きがあった、今川義元は悠然と笑って家臣達に告げた。
「ではでおじゃる」
「はい、これよりですな」
「北条殿への助太刀に向かいまするな」
「駿河から箱根を通り」
「そして相模に入りますな」
「そうするでおじゃる。箱根の山は険しいでおじゃるが」
それでもとだ、義元は言うのだった。
「通れないこともないでおじゃる」
「今は箱根を越えずともです」
それでもとだ、義元に一人の整った顔立ちに知に満ちた穏やかな目の老僧が言ってきた、義元の師であり今川家を政と軍両方で動かしている太原雪斎である。僧衣も実に整っていてよく似合っている。
「それでもよいのです」
「軍勢を動かすだけでおじゃるな」
「はい」
雪斎は義元に穏やかな声で答えた。
「箱根を無理に越えずとも」
「助太刀をすると見せる」
「それだけで。長尾殿の軍勢は一枚岩ではありませぬ」
雪斎は政虎が率いる十万の大軍のこのことを指摘した。
「関東の諸大名の方々の兵が八割程で」
「佐竹殿や宇都宮殿の軍勢でおじゃるな」
「あの方々と兵達がどう思うか」
今川家が北条家の援軍に動けばというのだ。
「それがです」
「狙いでおじゃるな」
「左様、武田殿も動かれますし」
「ならばでおじゃるな」
「長尾殿はまだ戦おうとされるでしょうが」
「それでもでおじゃるな」
「他の大名の方々が浮足立たれます」
八万の軍勢がというのだ。
「そうなればです」
「長尾殿は退くしかないでおじゃるな」
「そうです、ですから」
「この度は動くだけでよし」
「左様です」
「それはよきこと。麿としてもでおじゃる」
義元は雪斎の言葉を聞いて上機嫌で述べた。
「戦よりもでおじゃる」
「戦わずしてですか」
「ことを果たせばでおじゃる」
それでというのだ。
「いいでおじゃるからな」
「その通りです」
「和上が麿に教えてくれたことの一つでおじゃる」
「はい、今は戦国の世ですが」
「それでもでおじゃるな」
「戦はせぬに限ります」
「全くでおじゃるな」
「戦は血は流れますし」
血と言ってだ、雪斎は顔を曇らせた。そのうえでさらに言うのだった。
「多くの者を疲れさせ壊し焼いてしまいまする」
「いいことはないでおじゃるな」
「ですから」
「今にしても」
「はい、兵を動かして」
それでというのだ。
「ことが済めば」
「それでよいでおじゃるな」
「それで北条殿に恩が売れるなら」
それならというのだ。
「大きなことです」
「そうでおじゃるな」
「それで北条殿が東におられ」
「こちらには来ず」
「さすれば我等は」
「安心してでおじゃるな」
義元は雪斎に笑顔で話した。
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